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実はダリウスは、千勢に言わなかったことがある。
世界との繋がりが消失してしまい、どことも繋がりを持てないまま、ある日忽然と姿を消してしまった人がいたことを。
外へ出た千勢は、心ここにあらずな様子で人々が行き交う通りをトボトボと歩いていた。
(もう、家には帰れないの? そういえば最近はあんまり家族や友達のこと、思い出してなかった……)
不意に、このまま忘れていってしまうのではという不安に駆られた。
世界との繋がりは消えても、両親や友達との思い出はなくしたくない――!
(だって、私のルーツだもの)
不安と恐怖を押し込めようとギュッと奥歯を噛みしめた時、目の前に誰かが立った。
「あんた、大丈夫か。具合でも悪いのか?」
その声に、急に現実に引き戻された。
ハッとして顔を上げると、そこには千勢より少し年上の青年がいた。
彼は千勢の顔を見てギョッとする。
「真っ青じゃねえか。具合悪いんだろ、少し休め。こっちだ」
千勢は青年に手首を掴まれて、グイグイと引っ張られていった。
連れて行かれたのはオープンカフェのテーブルだった。
千勢は青年に導かれるまま、椅子に腰を下ろした。
「今、何か持ってくるからここにいろよ、いいな?」
千勢が返事をする間もなく、青年は店内に駆け込んでいった。
その背を見送りながら、やはりニーロに送ってもらうんだったと後悔した。見知らぬ人に気遣わせてしまった。
ぼんやりしているうちに、青年はトレイを持って戻ってきた。
「お、ちゃんといたな。温かいものを持ってきた。あと少し甘いものと」
千勢の前に、良い香りの紅茶とクッキーが置かれた。
青年も自分の分をテーブルに置き、向かい側に座る。
「すみません……あの、ありがとうございます。いただきます……」
紅茶を一口飲むと、寒かった体にじんわりと温かさが広がっていった。
「おいしい……」
「そりゃ良かった。あんた、今にも死にそうな顔してたぜ。余計はことは聞かねぇけど、その代わり、落ち込んだ時にどうしたらいいか教えてやる」
青年はニヤリとして言った。
「パーッと遊ぶんだよ、大勢で。最初は楽しくないかもしれないが、終わる頃にはきっと笑ってる」
確かにそういう方法もあるかもしれないが、千勢にはそんな『大勢』はいない。
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