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***巨大水槽前***
まさしく可視化されたアメーバ。
ヒトデのなり損ない。
ぐにぐにしたゲル状の見た目からは、およそ知性は感じられない。
巨大な水槽の中を、手のひら大のヒトデの出来損ないがうようよ浮いている。
水槽に顔を近づけている女――明星 アカリは、「こういうのをヒトデナシと呼ぶのだ」と一人で満足そうにうなずく。
――オナカスイタ
アカリは確かにアメーバ――もとい、ヒトデナシの声を聞いた。
それは音声ではなく、脳に直接語りかけてくるものだった。
巨大水槽室のドアが開く音がすると、
アカリは振り向かずに入室者に声をかけた。
「博士―、この子達にもう言語を教えてるんですね」
「ああ、そうだ。だが助手よ、今度という今度は妙な言葉を教えるなよ」
「妙な言葉と言われましても、定義が曖昧過ぎますよー」
「定義を狭めるような言葉を教えるな。あるいは定義するな」
「はーい」
アカリが気の抜けた返事をすると、ドアが閉まる音がする。
アカリは博士と呼んだ男の助手らしく、
幼い表情に不釣り合いな白衣を着ていた。
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