結婚1年目スタート

3/13
5814人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
少なからずくるみにも、くるみの担当を希望する客はいる。男性客だったり、学生が多いが、そんな時も番号札を渡したり、時間を空けてまた客が来店してくるのだ。そういったリピーターが多いのが、くるみと長谷川がいる営業所の強みでもあった。 加藤が戻って来て、長谷川の客もいなくなり、店にひとときの静寂が訪れる。 「じゃ、今の内に2人で休憩行って来い」 そう言われてくるみと長谷川は社員証を外し、2人で遅いランチ休憩に出た。今までにも何度かこうして2人で休憩に出た事はあったが、その時とは少しお互いの立場が違う。 プライベートでは夫婦なのだ。(はた)から見れば、職場の同僚にしか見えないだろうけど、今日から夫婦になっているんだと思うと、くるみは緊張し始める。 長谷川が行くあとをくるみは黙ってついて行く。手に財布だけ持ち1歩下がって歩いていると、ドンドン店から離れて行く。 「えっ、光広? どこに行くの?」 そう声をかけると、長谷川は振り返りくるみの空いている手を掴み、ある店に入った。自動ドアが開き中に入ると、一面ガラスのショーケースが並び、キラキラと輝く指輪やネックレスがあった。 「結婚指輪はまだだったな。普段はしなくてもいいけど、親達に会う時はいるだろ?」 「あ、そっか…」 「くるみはどんなのがいいんだ? 好きなのを選んでいいよ」 「えっ、でも…」 「あっ、ほら、こっちがマリッジリングだって」 くるみは長谷川と一緒に、ショーケースの中で並んで輝いている指輪を覗き込んだ。金額を見てくるみは驚き、もう少し低額の指輪を選ぼうとするが長谷川に押し切られ、2つの指輪が重なり合うように美しい曲線の指輪を選んだ。 サイズ直しをする為1週間ほどかかると聞き、長谷川がカードで支払いを済ませて店を出た。くるみ達の店の方へ戻り、カフェに入ってランチを食べる。食事をしながら長谷川が話す。 「さっきはありがとう。助かった」 「あぁ、別にいいよ。仕事でしょ」 そう言うと長谷川は嬉しそうに微笑む。 (2人の時は笑顔だなぁ。嬉しい…) 「昨日話し忘れていたけど、結婚式の事だが、来月の連休にするらしい」 「あ、そっか。結婚式…」 「大丈夫、俺がそばにいるから」 長谷川はそう言って、テーブルの上に置いたくるみの手を握る。 (まただ……その言葉…) 「うん、ありがとう」 くるみは笑顔を見せて、心強く励ましてくれる長谷川に礼を言った。 2人でランチを食べて、会計は長谷川が済ませてしまう。くるみは少し頬を膨らませて店に戻る。店頭に戻る前に社員ロッカーの横にある休憩室で、くるみは自販機で缶コーヒーを2本買った。 「もうっ! こんなのしか返せないけど……ありがと!」 くるみは口を尖らせてそう言い、缶コーヒーの1本を長谷川に差し出す。長谷川はスッと顔を伏せ手を伸ばし、下を向いたまま呟くように言った。 「サンキュ…」
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!