2人の新居

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2人の新居

くるみは涙を止める事が出来ず、長谷川の腰の辺りにぎゅっとしがみつき、声を上げて泣く。しゃくり上げながら泣くくるみの背中を、優しく長谷川が撫でる。抱き締める腕や背中を撫でる手が優しくて、くるみは余計に長谷川に甘えて泣いていた。 「絶対、俺が何とかするから……元に戻れるように、するから…」 そう言って長谷川はくるみの頭を撫で腕を緩めて、くるみの涙を手で拭う。 「大丈夫。俺がいる」 長谷川がくるみに笑顔を見せた。くるみはハッとし、昔の記憶が甦る。 ≪だいじょうぶ。僕がいるよ≫ まだ5歳だったくるみが、餌に群がった鯉に驚き『あっくん』に飛びついた時に、『あっくん』がくるみに笑顔で言った言葉と同じだった。 (兄弟だなぁ……笑顔まで、一緒だ……) 「似てるね…」 そう言ってくるみは微笑み、涙をポロポロと零した。 「ん…?」 「ううん…」 首を傾げる長谷川に、くるみは微笑んで首を横に振り、手で涙を拭う。 「今日の長谷川は、優しいね。何だか調子が狂っちゃう」 「バーカ、こっちが本来の俺だ。プライベートまで顔を作るかよ」 「えっ? じゃ、仕事の時は顔を作ってるの? あの不愛想な顔をわざわざ? そんなにカッコいいのに? もったいない!」 「……お前な…」 「あっ! ごめん。つい、本音が…」 婚姻の重圧におし潰され、いつも強がって見せていた長谷川に泣き顔の弱い姿を見せてしまい、くるみはもう取り(つく)う事が出来なかった。 「くっ、くっ、はははっ!」 (えっ! 長谷川が笑ってる。こんなふうに、声を上げて笑うんだ…) 大きな口を開け声を上げて笑う長谷川の姿を初めて目にし、くるみは驚きその笑顔に見惚れる。胸の奥がきゅうと痛み、ドキドキと鼓動を高鳴らせていた。 「あぁ、ごめん。松浦…いや、くるみが素直で可愛いなと思って。いつも強がってばっかでさ、本当のくるみってどんな感じなんだろうって思ってたけど……ふふっ、いいじゃん!」 (えっ、今、くるみって……可愛い? いいじゃんって? どういう…意味…) 色々と予想外の事に、くるみの脳は整理が追いつかず、訳が分からないまま次に進む。笑顔で長谷川がくるみに手を差し出し言う。 「くるみ、おいで。ちょっとだけ買い物に付き合って」 「うん…」 くるみが長谷川の手を取りついて行くと、駐車場には高級車がズラリと並んでいた。その内の1台に歩み寄り、長谷川が助手席のドアを開けくるみを乗せる。着物の裾や帯に気をかけ、長谷川が足元やシートを調節してシートベルトをする。 「大丈夫? 苦しくない?」 「うん、大丈夫。ありがとう」 「うん…」 ドアを閉め車の前を通り運転席側に回って、ドアを開け長谷川が車に乗り込みシートベルトをして車を出した。くるみは緊張しながらも、初めて見る長谷川の運転している姿を横目でチラチラと見る。
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