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車を走らせながら、長谷川がくるみに言った。
「くるみ、先に訊いていいよ。何でも隠さず答えるから」
くるみは不思議に思っていた事を尋ねる。
「金崎旅館の金崎って、どこから? お母様も、跡取になる長谷川も、姓は長谷川でしょ?」
「くるみ、契約中は一応、俺達は夫婦になるんだ。俺の事は光広って呼んでくれ」
「あっ、そうだね。うん、光広」
「金崎は代々続いた姓で、祖母の代で終わった。長谷川は父の姓で、婿養子に入るんじゃなく、長谷川の姓のまま母は女将になり金崎旅館を継いだんだ」
「じゃ、戸籍は長谷川家になるの?」
「うん。長谷川家は、まぁいわゆる一般の家庭なんだけど、金崎家の母と婚姻した事で家系図的には繋がるから問題ないんだ。金崎家の母が女将として跡取になって、父は経営で代表取締役の社長をしている」
「そうなんだ。でもそれならどうして、お父様は金崎家の婿養子に入らなかったの? 一般の家庭なんでしょ?」
「母は元々、旅館を継ぐ気は無かったらしいんだ。祖母もそれでいいと納得していたみたいだけど、旅館が忙しくなって母が手伝いに来た時に、帰って行くお客様に言われたんだって「金崎旅館があるから、仕事が頑張れる。また疲れた時には、癒してもらいに来ます」って」
くるみは職場の窓口で、プランを決め宿泊する旅館を決める時に、客が話していた事を思い出す。
≪ここの旅館は静かで寛げるよね≫
≪料理も美味しいし景色も最高で、仕事の疲れを忘れさせてくれるんだよね≫
≪他の旅館だと寛げない時があって、やっぱりここだよね≫
(そうだ、旅行客がそんなふうに話していた…)
「その時に無くしたらダメだ。金崎旅館を継ごうって決めたらしい。戸籍は長谷川だけど、金崎家とは繋がっているし、血縁でいうと母が跡取なら問題ない。金崎旅館の名称はそのままで、祖母から跡を継いだんだ」
「そうだったんだ。だから、金崎旅館を無くせないのか……」
話をしている間に、車はある店の駐車場に到着し停まった。長谷川がシートベルトを外し、くるみに言う。
「まず、その着物を着替えないとな。ちょっと待ってそっちに回る」
そう言って車を降り、助手席側に回りドアを開け、くるみに手を差し伸べる。
「あぁ、頭が当たらないように気をつけて」
くるみは長谷川の手をぎゅっと掴み、足を片方ずつ車から出し頭を低くして腰を上げる。長谷川がくるみの手をぎゅっと握り引き寄せて、車から降りるくるみの後頭部にそっと手を添えた。くるみが完全に車から降り立ち上がるまで、長谷川は手を離さない。
「ありがとう、光広」
「いや…」
長谷川がドアを閉めリモコンで鍵をかける。くるみの右手を長谷川が握り、繋ぎ直して指を絡める。
「行こう」
長谷川の手に引かれ店に入ると、有名なブランドショップだった。店員に服や靴、鞄などを見せて欲しいと長谷川が話し、次々に服や靴が出され目の前に並べられる。くるみに服のサイズや靴のサイズを聞き、くるみを椅子に座らせ草履と足袋を脱がせ、靴だけを試しに履かせる。靴を履かせ、長谷川が手を取り立たせて少し歩く。
「どう? 痛くない?」
「うん、大丈夫。痛くない」
「じゃ、この靴で。鞄は靴と合わせてこれを。服は試着が出来ないから、これとこれ。あとこれだっけ? くるみがいいって言ってたの」
「あっ、うん…」
「じゃ、それを。あとは……この辺に下着の店ってある?」
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