2人の新居

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手を繋いで中に入り、くるみが好きなデザインの下着を選び、サイズを確認して1セット手に持った。 「くるみ、一応、あと2セット買っておこう」 「えっ、あっ、うん…」 違うデザインの下着を追加で2セット選ぶと、それらを持ってレジへ向かった。さっきのブランドショップでもそうだが、くるみは財布を持っていない。和装用の小さな鞄は持っているが、旅館から車に乗った時、長谷川に後部座席に置かれたまま手に持てていない。 下着店でもレジで会計をするのは長谷川だった。上着の内ポケットから財布を出し、キャッシュトレーに3万円を置き、お釣りを受け取る。3セットの下着が入った紙の手提げバッグを長谷川が受け取り、手を繋いで店を出た。 「現金も持っているんだ…」 「うん。10万円以内なら、現金で支払うから」 「えっ、じゃあ、えっ……服は……一体いくらに…」 くるみは駐車場に戻る足を止めて尋ねる。ブランドショップで値札も明細も見ていなかったくるみは焦った。あとで長谷川に返そうと思っていたが、一体、総額はいくらになったのか、急に不安になる。 長谷川が足を止め、満面の笑みでくるみに言った。 「くるみ、25歳の誕生日、おめでとう! 俺からのプレゼントだ」 職場で聞いた祝いの言葉とは訳が違う。25歳の誕生日を1人で寂しく過ごしたくるみに、長谷川から心のこもった祝いの言葉と、十分過ぎるほどのプレゼントが贈られた。 「あ、ありがとう……っ……光広…っ……ありがとう…」 泣きながら礼を言い続けるくるみに、手を繋いで「もういいよ」と言いながら笑う長谷川。車を走らせながら、何だか運転席の長谷川が嬉しそうに見える。どこに向かっているのだろうと思い、くるみは景色を眺めていた。 超高層マンションの駐車場に車を停めた長谷川に、くるみが尋ねる。 「光広? えっと……ここは?」 「ん…? あぁ、家だよ。俺達がこれから住む家は、ここの20階にあるんだ」 長谷川は後部座席に置いた荷物を全て持ち、助手席のくるみの手を引いて降ろす。くるみは長谷川の手をぎゅっと握り、戸惑いながら聞いてみる。 「ここって何階建て…?」 「ん…? 25階かな。20階でも見晴らしは最高だぜ。夜景も見れるしな」 「えっ、光広はここに住んでるの?」 「あぁ、1ヶ月前からここに引っ越して、ここから出勤してる」 長谷川に手を引かれマンションの中に入り、エレベーターで上がる。 「そうなの? 家賃は?」 「家賃は金崎旅館の経費で落ちる。跡取の俺達は元々、金崎旅館に住むのが普通なんだけど、俺の後の跡取を作る事が最優先って事。だからここの家賃は経費で払うらしい。あとの生活費は俺の給料から払うよ」 部屋の前に着いて長谷川が鞄からカードキーを出し、鍵を開けドアを開ける。先にくるみを中に入れ、長谷川が入って鍵を閉めた。長谷川はスッと屈み、くるみの草履を押さえ脱がす。くるみは長谷川の肩に掴まり草履を脱いで、玄関を上がった。 ゆっくり中に進みリビングに入ると、広いリビングに高級そうなソファーが置いてあり、ガラスのローテーブル、ふわふわのラグマット、大きな大画面のテレビが並んでいた。 長谷川がすぐそばのカーテンを開けると、一面に街の景色が見えた。ソファーに座り夜景が楽しめると言う。そして長谷川が部屋を案内する。
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