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「部屋は2部屋ある。こっちが俺の部屋。で、こっちが」
隣の部屋の前で止まり、長谷川がドアを開ける。
「くるみの部屋だ」
「部屋は……別々…?」
「あぁ、それは後で話そう。取りあえず、これに着替えるといい。着物、重いだろ。総絞りは普通の着物より重いって聞いた事がある」
「うん…」
「俺はリビングにいるから、着替えて来て」
「うん…」
長谷川が部屋の中に買った物を運んで、くるみは部屋に入りドアを閉めた。部屋は10帖ほどの洋室。左側の壁を隔てて隣が、長谷川の部屋になっている。その壁と突き当りの壁の角に、セミダブルサイズのベッドがあった。シーツや布団カバーは、綺麗なクリーム色のものがかけられていた。
入口から左のリビング側の壁に向かってシンプルなデスクと椅子が置かれ、右側は広いクローゼットになっていた。
くるみはクローゼットを開け、買ってもらった服をハンガーに吊るす。ワンピース、タイトなロングスカート。膝から下がふわりとフリルになっている。細身のカットソー、スラリとしたロングカーディガン。
着物の帯を外し、ベッドへ1つ1つ丁寧に置いていく。留め具や飾り、総絞りの着物をハンガーを2本使ってクローゼットのポールに吊るし、湿気を取る。長襦袢を脱ぎ、それをハンガーに掛け吊るした。
(はぁっ……軽くなった…)
白色の肌襦袢を脱ぎ、それで少し汗を拭う。その下はショーツのみ。長谷川に下着はどうなっているのかと訊かれたが、くるみに答えられるはずもない。ブラはつけておらず、ショーツのみなのだから。
買ってもらった下着を袋から出し、デスクの上のペン立てからハサミを取り値札を取って身に着けた。出来れば洗ってから身に着けたいが、今はそうも言ってられない。汗をかいていたので、ショーツも穿き替え、細身のカットソーとロングスカートを穿いた。
髪を解き、髪飾りをデスクの上に置いて、帯はクローゼットのポールに吊るした。他の洗濯出来る物は肌襦袢と一緒にまとめて、ベッドの上に置いておく。
クローゼットはしばらく開けたままで、くるみは部屋を出た。リビングに漂うコーヒーのいい香り。
「おっ、着替えたか? 軽くなっただろ?」
「うん。光広、本当にありがとう」
長谷川がコーヒーカップを両手に持ち、ダイニングテーブルにカップを置く。シュガーポットとコーヒーフレッシュを置き、椅子を引いて座り言う。
「座って。コーヒーでも飲んで、話そう」
「うん…」
くるみは長谷川の向かい側の椅子を引き、座ってシュガーポットを開ける。スプーンで2杯コーヒーに入れ、コーヒーフレッシュを1つ入れた。長谷川はシュガーを1杯入れただけ。スプーンでかき混ぜてくれて、2人でコーヒーを飲みホッと一息つく。カップを持ったまま、長谷川が話す。
「あの時、誕生日だって聞いた時……悪かった。あんな言い方しか出来なくて……後悔していたんだ」
「そんな……私だって、いつも酷い言い方ばかりして…ごめん…」
「いや、別にそれは構わない。強がっているのは、顔を見ていれば分かるから」
長谷川はそう言ってニヤリと笑い、コーヒーを飲む。くるみは見透かされていた事に気づき、顔を火照らせてコーヒーを飲んだ。
「それで、これからの事だけど…」
長谷川が和香から受け取った『婚前契約書』のコピーを出し話す。
「我が親ながら流石だな。俺の考えが甘かった。ここまで考えていたとは…」
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