結婚1年目スタート

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ゴールデンウィークを明けた頃からずっと、店では夏の旅行プランやツアーなど予約が相次いでいた。朝9時に開店し、10時を過ぎると客が増え始める。11時頃になると、待ちが出るほど店は忙しくなっていた。 窓口は通常3名で対応している。長谷川、くるみ、2年先輩の加藤(かとう) 省平(しょうへい)と並び、旅行プランやツアーの提案、フリープランの手助けをしたり、宿泊先や交通機関の手配、観光に関わる様々な予約などを手配していた。早い客だと30分、長い客だと2、3時間もあり得る。 くるみは客の話を聞き、プランの提案をしてパンフレットを見てもらっている間に、店に訪れた客に番号札を渡し、1組ずつ店頭にあるテーブルへ案内する。店の裏でグラスにお茶を入れ、待っている客へ出す。そして窓口での対応を早くする為、旅行プランに関しての簡単なアンケートを渡した。 「順番に窓口で対応させて頂きますので、もうしばらくお待ち下さい。よろしければ、どういったプランをご希望されているかお聞かせ願えますか?」 笑顔でそう言って、クリップボードにアンケートの紙を挟み、1組ずつ渡した。入口に『順番に対応させて頂きますので、番号札をお取り下さい』と書いたボードを出し、残りの番号札を置いておく。 くるみは窓口のカウンターに戻り、対応している客の反応を確認し席に戻った。希望しているプランの予約を入れ、飛行機の往復チケットを取り客に説明をして控えを渡し、対応を終える。客を見送った後、順番待ちをしている番号をくるみが呼ぶ。 すると待っていた客がくるみに言った。 「すいませーん! 私達なんだけど、長谷川君を待ってるのー! 次の人に行ってぇ!」 「あっ、そうでしたか。すみません。では、もうしばらくお待ち頂いて、では二番のお客様! お待たせしました」 くるみがそう呼ぶと、次の客も同じように長谷川を希望する客だった。長谷川の担当を希望する女性客は連日現れる。冗談で長谷川対応希望の番号札がいるんじゃないかとくるみが提案したくらいだが、それも現実味を帯びて来た。 くるみと客がそんなやり取りをしていると、長谷川の対応している客が振り返り待っている客を見る。長谷川もチラリと見るが、目の前の客に集中し対応している。 「では、三番のお客様! お待たせしました」 そう呼ぶと、アンケートを持って3人の客が窓口カウンターへやって来た。くるみはもう一度、客に一礼し挨拶をする。 「いらっしゃいませ。大変お待たせ致しました」 笑顔で挨拶をし椅子に座って、アンケートに目を通し希望されている旅行プランを提案する。いくつかの観光ルートを提案すると、3人がどうするか相談し始める。その間にくるみは、椅子をずらし長谷川にそっと近づいて、小声で耳打ちする。 「長谷川、データの確認とかは私でも出来るから、回して。お客様の対応、お願い」 「分かった。助かる…」 くるみは微笑んで頷き、カウンターの下からデスクワゴンを出し、長谷川とくるみの間に置いた。早速、対応を終えた長谷川が、控え等をクリアファイルに入れデスクワゴンの上に置く。そして待っている客を長谷川が呼んだ。 くるみは対応している客の話を聞き、自分の仕事に戻る。待っている客を対応し続け、長谷川対応の客以外いなくなった。加藤が先に休憩に入り、くるみは長谷川の対応した客のファイルの処理を行う。
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