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映画が始まって1時間ほど経った時、ふと左側で動く物の気配に気づいた。光広は左側に視線を向けると、コクンコクンと松浦が首を振り体を小さく揺らして眠っていた。
(えっ、マジか? いつから寝ていたんだ?)
松浦のその姿が少し辛そうで、光広はそっと起こさないように背中と頭を支えて、枕を敷き松浦をベッドに寝かせた。スヤスヤと眠っていて無防備な松浦を、光広はジッと見つめる。
左手をベッドにつき松浦を上から見下ろして、右手で彼女の頬にそっと触れる。少し赤く熱い頬を親指で優しく撫で、微笑む。
「何、無防備に寝てんだよ。襲うぞ…」
そう言った時、くすぐったいのか松浦が「ふふっ」と笑う。瞼は閉じている。眠ったまま笑っている。その笑顔が可愛くて、光広は顔を寄せ囁く。
「分かってないだろ。俺がお前を好きだって事…」
松浦の唇に光広が唇を寄せ重ねようとしたその時、松浦の口が動いた。
「みつ…ひ…ろ…」
小さな可愛い口が自分の名を呼ぶ。その愛しい口を己の口で塞いでしまいたい衝動に駆られるが、光広は目を瞑ってグッと堪え顔を上げる。
「今はまだ、我慢しないとな…」
警戒心のない松浦の顔を苦笑いして見つめ、光広は唇の代わりに松浦の額に唇を落とした。
「おやすみ……くるみ…」
光広はDVDを早戻しして、到底眠れそうにない夜をDVDを見ながら過ごした。
翌朝、DVDを3本見終え、やっと少し眠くなり光広は松浦から離れてしばし眠りにつく。すぐに深い眠りに入っていく。
*****
「光広、光広!」
くるみは長谷川を呼び、揺り動かしながら起こす。すると眉間に皺を寄せ、長谷川が唸る。
「ううーん……な…に…」
「もう9時過ぎだけど、何時にここを出るの?」
長谷川は体を起こし、まだ眠そうに目をこすって言う。
「別に何時でもいいらしいよ。母さんが好きな時に帰れって言ってた」
「そうなんだ。あ、ごめん。まだ眠かったね…」
「いや…いいよ。おはよ」
「おはよう。昨日、私、寝ちゃったんだね」
「うん。すごい首が痛そうだった。ふふっ」
「あっ、でも案外コクコクしてる時って、気持ちいいんだよね」
「確かに。ふわふわ夢心地で気持ちいいんだよな」
「うん…」
(夢を見ていたような気がする。すごく幸せで嬉しかったような…)
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