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2人の距離
「昨日の映画の続きを見たいなら、今から見ててもいいけど、どうする?」
「うーん…光広は全部見たの?」
「うん。見たよ」
くるみはまだちょっと眠そうな長谷川を見て、少し考えて言った。
「じゃ、私は続きを見るから、光広はもう少し寝てていいよ。終わったら起こすから」
くるみはテレビのリモコンを持ち、ヘッドボードに枕を当てて背中をもたれさせて言う。
「そう? じゃ、もう少し寝かせてもらおうかな」
長谷川がもう一度横になり、くるみの隣で寝始める。その距離手のひら1つ分。くるみが起きた時は、長谷川は反対側の端に寝ていたのに、今はすぐ近くにいて、今にも触れてしまいそうな距離にいる。
(昨日、映画を見始めた時よりも、近いよぉ…)
くるみはドキドキ緊張しながら、ベッドに両手をついてそっと静かに左へ体を移動させ、長谷川との距離を取ろうとした。ベッドについたくるみの右手を、ぎゅっと握る大きな手。くるみはとっさに寝ているはずの長谷川を見た。
長谷川はジッとくるみを見上げ、ゆっくりくるみの方に体を向けて左側面を下にして小さな声で話す。
「離れんなよ。ただ手を握ってるだけでいいから、このままちょっと眠らせて」
「う、うん……」
くるみが返事をして頷くと、長谷川は嬉しそうに微笑んで、くるみにさらに近づく。手を握ったまま、くるみの伸ばした脚に寄り添うようにそっと体を寄せ眠り始めた。手には体温、脚には少しの重み、腕には寝息。くるみの右側半分は長谷川に支配されてしまい、映画どころではなく、内容が一切入ってこないまま、エンドロールを見た。
リモコンでテレビを消し、くるみは長谷川に声をかける。スヤスヤと穏やかに眠っている顔を見ると、起こすのがかわいそうだと思ってしまい、くるみは少しためらう。
(光広の寝顔ってこんななんだ……当たり前だけど、初めて見た……寝ててもやっぱりカッコいいんだ……あ、私も寝顔見られたんだ……大丈夫だったかな? 半めとかよだれとか……)
そんな事を気にしながら、しばらく長谷川の寝顔を眺める。
(ふふっ、ずっと見ていられる。光広が起きてる時は緊張するけど、寝てる時は緊張しないから、なんだか嬉しいなぁ…)
微笑みながらそんな事を考えていると、長谷川の薬指にはめた結婚指輪に目が留まった。
(そういえば、光広の方の指輪にも何か書かれているのかな?)
くるみは少し気になって空いた左手でそっと、くるみの右手から長谷川の小指と薬指を離して指輪を抜き取ろうと試みる。長谷川の顔を見ると、まだ眠っている。握られた右手をゆっくり少し上にあげて、長谷川の手を支え、くるみは左手の親指と人差し指で指輪を摘まんだ。
その瞬間、長谷川の手がくるみの右手をぎゅっと掴み起き上がって、くるみの体をベッドに倒して覆い被さり、右手をくるみの顔の真横につく。一瞬の出来事。あっという間にくるみは、ベッドへ組み敷かれた状態になっていた。
長谷川が真上からくるみを見下ろし、ニヤリと笑って言う。
「何やってんだ? ん?」
「い、いや、その…」
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