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長谷川は車を有名ラーメン店の駐車場に停めた。
「えっ? ラーメン?」
「ん? ここのラーメン美味いんだぞ! 今日はくるみの奢りだし、天津飯のセットにしよ! ほらっ、行くぞ!」
「う、うん…」
くるみは戸惑いながらシートベルトを外し、ドアを開けて降りる。長谷川が車を降り、鍵をかけて少し鼻歌を歌いながら、店に向かう。
(もっと他に焼肉とか、高級なレストランとかじゃなくていいの? だってさぁ…)
テレビ放送でラーメンの特集番組に紹介されていた有名ラーメン店。外には行列が出来ていて、店の外観はとてもじゃないがお洒落とは言えない。くるみと長谷川は前日に結婚式をしてスイートルームに泊まり、高級な夕食を食べ贅沢をして来た帰り。その帰りにラーメン店で、セットにしても1人2千円にも満たない食事とは、くるみはつくづく長谷川の優しく思いやりがあり、飾らない性格が好きだと感じていた。
(人にはすごい贅沢させるのに……自分は…しないんだ…)
時間帯がよかったのか、少しの間並んですぐに店内に入れた。くるみと長谷川はカウンター席で並んで座る。店内は割と広く綺麗。テーブル席やカウンター席も満席で、客の入れ替わりが激しく、店員もテキパキと動き店内は活気づいている。
店員がおしぼりとグラスに入れた水をテーブルに置き、注文を聞く。くるみと長谷川はメニューを見て、長谷川が先に注文をした。
「豚骨チャーシューラーメンの天津飯セットで」
「私は、チャーシューラーメンのチャーハンセットで」
注文をすると、店員が2人に尋ねる。
「他にご注文はよろしいですか?」
そう訊かれて、くるみは長谷川に言う。
「光広、餃子とかトッピングとか好きなの頼んでいいよ。遠慮しなくてもいいからさぁ」
「じゃ、餃子を1人前追加で。以上で」
「豚骨チャーシューラーメンの天津飯セット1つ、チャーシューラーメンのチャーハンセット1つ、餃子1人前、以上でよろしいですか?」
「はい」
「では、少々お待ち下さい」
店員はそう言って頭を下げ、元気よく厨房に注文を読み上げオーダーを通した。厨房から威勢よく返事が返って来る。
「本当にあれだけでよかったの? 遠慮してない? なんならもっと」
「くるみ、俺はくるみと食事が出来るなら、どこでもいい」
長谷川はそう言って微笑んだ。
「光広……じゃあ、これからは夕食を一緒に食べない? 私、作るからさ…」
自然に出た言葉だった。くるみは初めて長谷川と夕食を一緒に食べ、お腹も心も満たされ幸せを感じていた。それを家でも出来たらと、頭の片隅で考えていた。
長谷川もくるみと食事をしたいと思ってくれていると分かった今、くるみは自分の想いを自然と口にしていたのだった。
「でもそれじゃ、くるみの負担になるんじゃ」
くるみは首を横に振る。
「なんないよ、そんなんじゃ。元々、自炊はしていたし、全然負担じゃないよ。だから、一緒に食べようよ」
「うんっ…じゃ、くるみの手料理を食べさせて」
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