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「うんっ。あっ、でも光熱費がかかるけど…」
「そんなの気にすんなよ。てか、もしかしてそれを気にして、家で料理してなかったのか?」
「あ、いや……まぁ…」
「バカだなぁ。そんな事気にしなくていいんだよ!」
「でも、光広も私に気を使って、外食してたでしょ。お酒とかも家では飲まないし。あれだけ強いのにさ」
「いや、それは……まぁ…」
「ふっ、ふふふっ、お互い気を使い過ぎなんだね」
「そうだな。じゃ、余計な気遣いは無用って事で」
そう話がまとまった時、注文したラーメンが運ばれて来て、2人はお互いを気にする事なく、ズルズルと音を立ててラーメンを啜った。餃子を半分ずつ食べ、熱いラーメンを額に汗を滲ませながら堪能した。
くるみが会計をし店を出ると、長谷川が「ごちそうさま」と礼を言う。くるみは笑って「また来ようね」と返すと、長谷川は嬉しそうにくるみの手を握り「うんっ」と答え、2人は車に乗り家に帰った。
翌日、またいつも変わらない日常がやって来る。変わった事といえば、夕食はくるみの手料理で長谷川と食事をする事になったという事。仕事は8月のお盆休みに旅行する客が、予約を取りに店に押し寄せ相変わらず忙しくしていた。そのあとに続く9月の連休や秋の行楽シーズンのツアーは、毎年人気があり旅行客が増えるのだ。
仕事はいつも通り、家では夕食を一緒に食べるようになって、食後の後片づけを長谷川がし、その間くるみはお風呂に入る。そしてくるみと交代で長谷川がお風呂に入り、リビングで長谷川が淹れるコーヒーを飲んで寛ぐと言う日々を過ごし始める。
2人の距離が以前よりも縮まり、気を使う事も少しずつなくなっていた。ただ1つ『部屋には入らない』を守り、2人の平穏な日常は穏やかに過ぎていく。
1週間、2週間と過ぎ、2人にお盆休みと言う休暇は特になく、交代で少しの連休が与えられるのみ。2人が同時に休暇になる事はなく8月、9月と過ぎ、10月に入った。
ある日、長谷川と加藤が対応している客が、旅行プランで悩み時間を取られていた。くるみはその間にランチ休憩に入り、財布を持って外に出た。何を食べようかと考えながら店から離れ歩いていると、ふと長谷川と一緒に入った宝石店に目が留まった。くるみの脳裏に指輪の刻印の事がよぎる。
(指輪の事、何か分かるかも知れない。どうして隠すのか……やっぱり気になるし…訊いてみるか…)
宝石店に入って店員に名前を伝え、購入した日時や結婚指輪の事を話し、内側の刻印の事を尋ねてみる。
「長谷川様にご購入いただいたマリッジリングは、こちらのものと同じものですね」
店員がマリッジリングをショーケースから出し、くるみの前に置いて見せてくれた。
「そうです。これと同じ…」
店員は白い手袋をつけ、黒いトレーに指輪を乗せ説明し始めた。
「当店では、リングの内側に刻印されている文字は、こちらのものですとプラチナのpt1000と刻印されているだけになり、追加で文字を刻印する事になります」
「えっ…じゃ、初めから文字が刻印されている訳じゃないんですね」
「はい、そうです」
「じゃ、追加で刻印した文字って、教えてもらえますか?」
くるみがそう尋ねると、店員は購入時の控え伝票を見て話す。
「当店では、長谷川様から追加の文字の刻印は、承っておりません」
「えっ…」
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