2人の距離

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一瞬でくるみの頭の中は真っ白になった。ゆっくりと立ち上がり、店員に頭を下げる。 「そうですか……分かりました。ありがとうございます」 宝石店を出た後、その足で近くのカフェに入りカウンター席の一番奥に座った。 (やっぱりあの変な間は、嘘だったんだ。あの刻印は買った後に書かれたもの。でもあの店じゃないなら、一体どこで?) 注文を訊きに来た店員にオムライスとコーヒーを注文し、指輪の事を色々と考えるがくるみには一向に分からない。お互いに気を使うのはやめようと話したばかりだ。くるみは長谷川にもう一度訊いてみようと思う。 食事を終えて少し早めに店に戻り、社員ロッカーに財布を入れて扉を閉め、くるみは深呼吸をして心を落ち着かせて店頭に戻る。長谷川と加藤が対応していた客は帰り、店内にいた客もいなくなっていた。時間は昼の3時前。ちょうど客足が減って、くるみ達もひと息つける時間帯になっていた。 「お帰り。じゃ、今落ち着いたから、俺らも昼休憩に行って来る」 加藤が立ち上がり、長谷川に顎をしゃくって合図をする。 「分かりました。行ってらっしゃい」 くるみは自分の席に着き、椅子に座ったまま2人を見送る。 「長谷川、今日の晩って用事ある?」 「えっ、いや、特に用事はない……ですが…」 店の奥に入って行きながらそんな会話をし、長谷川がチラリと振り返る。 「じゃ、今日、仕事が終わったら飲みに行こうぜ」 「あっ……」 加藤の誘いに、少し困った様子で長谷川がくるみを見る。くるみは微笑んで小さく頷くと、長谷川は両手を合わせ頭をコクンと下げて、謝るような仕草を見せた。くるみは笑顔で頷く。 「分かりました。いいですよ」 長谷川はそう返事をして、ランチ休憩に出て行った。 店の鍵を加藤が閉めている時、長谷川がもう一度くるみに「ごめん」と耳打ちする。くるみは「ううん」と返し、そのまま飲みに行く2人を見送って駅に向かった。電車に乗り、家の最寄り駅で降りて、駅前のスーパーに寄る。 「今日は1人だし、お弁当を買って帰ろ」 カゴにお弁当と必要なものだけを入れて、レジで会計を済ませ家に帰る。 買って来た袋をダイニングテーブルに置き、冷蔵庫や棚に買って来たものをしまう。2人で食事をするようになって、冷蔵庫の中は食材でいっぱいになり、調味料なども増え家庭感が出ているキッチンになっていた。 袋から弁当を出しテーブルに置いたまま、くるみは部屋に行き鞄を置いて、部屋着と下着を持ち先にシャワーを浴びる。シャワーから出るとナイトブラとショーツを穿き、部屋着を着て楽な姿でテーブルの上の弁当をレンジで温めた。 ダイニングテーブルで久しぶりに1人で弁当を食べる。くるみはひとくち、ふたくちと食べ進めるが、味気なく寂しく感じた。キッチンやリビングに長谷川の存在を感じるのに姿がない事が、くるみを余計に孤独にさせる。部屋にポツンと1人、置き去りにされたような気持ちになっていた。 (1人で食事なんて平気だったのに……今は1人じゃ寂しいなんて……) 味気ない食事をササッと済ませ、長谷川がいつも淹れてくれるコーヒーを自分で淹れる。長谷川がコーヒーは勝手に淹れて飲んでもいいと言ってくれたからだ。その代わりにくるみがコーヒー豆を買う約束をすると、長谷川は「じゃ、交代で買って来よう」と言ってくれた。
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