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覚悟
指輪に刻まれた長谷川の想いを知って、くるみは驚くと共に目に涙を滲ませる。メッセージを見つめながら、長谷川の想いを考える。
(生涯私を? 3年で離婚が決まっているのに? 離婚した後も私を愛するって言うの? なんで Ⅰ will を使ったの?)
くるみの目から滲んでいた涙が溢れて、頬を伝い流れ落ちる。
willの使い方は色々あるが、よく使われるのは「I will」や「You will」を「I’ll」や「You’ll」と短縮して使う事。でもこのwillの使い方には違いがある。短縮して使った場合、思いつきや軽い気持ちのニュアンスになるが、別々でwillを使う場合は、必ずや絶対を意味し、その人の意志の強さを表すのだ。
くるみはその事を理解し、長谷川の想いの強さを知る。
「じゃ、光広は私の事を……好きって事…」
くるみが声を震わせながら呟いた時、突然、背後から腰に手が回り強く後ろに引かれ、左から手が目の前に伸びて2つの指輪を掴んで握り締める。くるみは背中に硬い胸板を感じ、体を硬直させた。突然の出来事で心臓が鼓動を速め、驚きで声が出ない。
「何してる?」
くるみは指輪のメッセージに気を取られ、玄関のドアが開く音や長谷川が帰って来た事に気づかなかった。
「俺の部屋に入るなって言ったよな」
長谷川が低い声で、くるみの耳元で話す。
(怒ってる……)
「そんなに指輪の事が気になっていたのか? 約束を破ってまで…」
「ごめっ」
とっさに顔を横に向け、謝罪の言葉を口にしたくるみだったが、その言葉は長谷川の唇によって塞がれた。目を大きく見開き、目の前の鋭く自分を見つめる目を凝視するくるみ。唇には柔らかい感触。
くるみの思考は停止し状況を把握出来ないまま、長谷川は次の行動に出る。くるみを力強く引き、そのままベッドへ押し倒した。ベッドが大きく弾み、ギシッと音を立て軋む。長谷川はナイトテーブルに手を伸ばし、カラカラと指輪を置いて、くるみの上に覆い被さる。
「見たんだろ? じゃもう遠慮はしない。この部屋に入ったら、もう逃がさない」
くるみを見下ろしそう言うと、長谷川は噛みつくように激しくくるみの唇に唇を重ねた。息を継ぎ繰り返される激しいキス。そのキスにくるみの唇は徐々に開かれ、唇の隙間から長谷川の熱い舌が一気に挿し込まれた。
逃げる間もなく絡められる舌にアルコールを感じ、くるみは頭も体も溶かされ体の力が抜けていく。長谷川の手が部屋着の上からくるみの体をなぞり、胸の膨らみを大きな手で包む。
長谷川はくるみの唇から唇を離し、その唇を耳へと運ぶ。耳を食み、輪郭を舌でなぞって、耳朶を吸う。胸にある手はゆっくりと動き愛撫を始め、やがてくるみの首元のファスナーを摘まんだ。
ファスナーを下ろすと同時に、長谷川の唇はくるみの首筋を這い口づける。キャミソールの裾を捲り、長谷川の手が差し込まれそうになった時、やっとくるみは声を発した。
「ごめっ…なさいっ……ごめんっ……でも、どうして…?」
くるみは涙を流して声を震わせながら、長谷川に謝り尋ねる。長谷川は顔を上げ、くるみを見下ろして言う。
「どうしてって? 何が?」
「3年で離婚するんでしょ? なのに、なんで生涯なの?」
「俺は離婚した後、もう誰とも結婚はしない。くるみだけを愛していく」
「じゃ、どうして離婚するの? 私の事を愛してくれるなら、離婚なんて」
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