覚悟

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「好きな女を、あんな重圧に潰されてたまるか!」 声を荒らげて言う長谷川。 「政略結婚なんてするつもりはなかった。だから婚前契約で離婚して、くるみに告白するつもりだったんだ。俺にはくるみ以外、考えられなかったから」 長谷川が体を起こしベッドの上に座って、話し始める。くるみも起き上がり、長谷川と向かい合って話を聞く。 「だけど、ごめん。俺さ、政略結婚の相手がくるみだって知って、くるみならいいって思ったんだ。相手の気持ちを考えない利益だけの政略結婚なのに、くるみと結婚出来るならいいって思ったんだ」 長谷川の目に涙が滲む。 「でも、くるみに「結婚するつもりで来たのか」と訊かれて、そういう訳じゃないって分かって欲しくて「結婚するつもりはない」って言ったんだ。まさか、くるみが来るとは思ってもみなかったから…」 「私も光広と同じ。光広がずっと好きだった。だから他の人と結婚するつもりはなくて、断りに行ったの。でも私も思ったよ。結婚する相手が光広だって知って、光広ならいいって。政略結婚でも相手が光広なら、いいって思ったの。けど、光広は「結婚するつもりはない」って言ったから、私も同じように答えた」 「なんだ……一緒かよ…」 「うん。一緒だったんだね…」 長谷川がくるみに近づき、片手を伸ばしてくるみの頬を包む。顔を寄せ少し傾き唇が触れ合う寸前に囁く。 「くるみ、好きだ」 「私も…」 優しく唇が重なり、お互いの想いを伝えるように唇を何度も重ねた。 「私は政略結婚でも、契約結婚でも光広ならいいよ。一緒にいられるなら、どんな事も乗り越えられる」 「くるみ……俺もくるみとなら、どんな結婚でもいい。俺がくるみを守る」 「光広…」 「くるみ、俺達の計画した離婚の話はなしだ。いい?」 「うんっ」  「愛してる、くるみ」 2人は唇を重ね、ベッドへ倒れ込んだ。2人の想いが重なり、体を重ね、本当の初夜を迎える。 だが…… くるみの両腕は、長谷川が馬乗りでベッドに押さえつけていた。 「あれ…?」 「あれ? じゃない……今、くるみはどこで、何をされている?」 何だか長谷川の目が怖い。さっき涙を浮かべて優しかった長谷川の目が、今は鋭くくるみを見下ろしている。 「えっ…と……光広の部屋で……光広のベッドの上に……押さえつけられてる…」 くるみは長谷川の様子を窺いながら、そう言った。 「そう正解。でも、部屋には入らないって約束だったよな。なのに、俺がいない間に入っていた……まぁ、今までは入っていなかったみたいだけど、なんで今日は約束を破ったんだ? ん?」 「ごめんなさい。光広が言った通り、指輪の事が気になってランチ休憩の時、あの宝石店に行ったの」 「えっ…」 「刻印の事を訊きに行ったら、初めから刻印されたものじゃないって分かって、追加で刻印したなら、なんて刻印したのか訊いたの。でも、そんな注文は受けてないって…」 「あぁ……そっか、それで余計に気になったのか…」 「うん。今日、光広に訊いてみようって思っていたけど、そのタイミングも逃してしまって……ごめんなさい…」
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