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「何、くるみ……照れてんの? 耳、真っ赤だぜ」
「そ、そんな事、ないよっ」
くるみは両手で両耳を塞ぎ、口を尖らせて言った。長谷川はくくっと笑い、くるみの顔の横に顔を寄せ言う。
「くるみ、んっ、キスして…」
長谷川が顎を少し上げ、くるみに催促する。くるみは長谷川の唇に軽くキスをして見つめ合った。
「うーん、それじゃ、足りない。もっと…」
くるみの後頭部に手を当て、頭を引き寄せて長谷川が唇を重ねる。優しく甘いキスを受け、くるみはソファーでまた溶かされる。キスを散々堪能し、時間を忘れ、2人は慌てて家を出た。
車の中でこれからの事を話し、まだしばらく職場には内緒にしておく事にした。ライバル同士で、お互い素っ気無い態度をとったり、憎まれ口を言ったりしているのを職場の皆に見られている。いきなり結婚報告など出来るはずもなく、これから徐々に仲良くなったように見せ、時期を見て結婚報告をしようと言う事になったのだ。
「あとは、母親達が作った『婚前契約書』の事だな」
「うん…」
「もう一度訊いていい? 本当にいいのか? 契約通りに子供を産んで、くるみは若女将として金崎旅館を続けていくんだぞ」
「うん。光広と一緒ならやっていけるよ。大丈夫」
「ありがとう。俺もくるみとなら旅館の跡取としてやっていける」
「うんっ」
「仕事は3年後には2人とも辞める事になるな」
「うん、そうだね…」
「まぁ、加藤先輩もいるし、大丈夫とは思うけどな。先輩、結構人気あるし」
「ふふっ、確かに。最近増えて来てるもんね。先輩のお客さん」
「あぁ……」
「それより、子供の事が心配だなぁ……私…」
「ん…? 子供? なんで?」
「3年以内に1人目、5年以内に2人目でしょ……出来るかな…」
「ふふっ、焦る事はないって。自然にまかせよう。もし3年以内に出来なくても、子供を作る事はやめなければいいんだ。母さんが何か言って来ても、絶対離婚するつもりはないから」
「うんっ」
「俺としては、まだ2人の新婚生活を楽しみたいなぁ。やっとくるみと本当の夫婦になれたから」
「ふふっ、そうだね。私ももう少し、イチャイチャしていたいかな」
「ふふっ、だな。よーし! 今日も帰ったら、イチャイチャしよーと。今日は夜、お風呂に一緒に入ろ」
「えっ……か、考えとく…」
「何だよ。朝、一緒にシャワーしただろ? 今さらだろ?」
「いや、シャワーとお風呂はちょっと違うような……」
「一緒、一緒。ただ湯舟に浸かって、色々するだけ」
「色々って……その色々がダメなんでしょうが!」
「何でだよ! その色々が、イチャイチャの1つだろ?」
「……そう……だけど…」
ようやく始まった2人の新婚生活。『婚前契約書』の条件は色々とあるものの、想いが通じ合ったくるみと長谷川にとってそれは、契約でも重圧でもなくなっていた。ただ2人が愛し合いその先に見える未来でしかない。今の2人には何も怖いものなどなかった。
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