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「へぇ、すごいじゃん…」
《それでね、光広、年末年始はこっちに帰って来るんでしょ》
「あぁ……いやまだ、予定は決めてないけど。今年はくるみと、どこか行きたいと思っているし」
《あら、そうなの? こっちに帰って来て、結婚式を挙げた神社で初詣と子宝のお参りをしない?》
「子宝?」
《そう。あの神社は縁結びや子宝のご利益がある所なの。来月で半年でしょ。まだ子供に恵まれていないし、一度お参りに行ってみてはどうかと思って》
(子宝かぁ……いいかも。結婚式を挙げた神社だし……行こうかな…)
くるみは長谷川の顔を見て、笑顔を見せ「行きたい」と小さな声で伝える。長谷川は優しく微笑み頷いて、携帯に向かって言った。
「くるみも行きたいってさ」
《そう! 是非いらっしゃい!》
「分かった。じゃ12月27日から休みだから、そっちに帰るよ」
《分かったわ。じゃ、実家の光広の部屋に泊まってもらうわ。くるみさん、いいかしら?》
「はい、是非」
くるみが返事をすると、和香の声が弾むように明るくなり言った。
《楽しみにしてるわね》
そう言って和香は電話を切った。長谷川も電話を切り、くるみに言う。
「くるみ、よかったのか? 旅館に帰ると、怖い思いしないか?」
「うーん、行ってみないと分かんないけど、きっと大丈夫だと思う。光広がいてくれるし、それに…」
「ん…? それに?」
「いずれは私も、若女将として金崎旅館を支えていかなきゃいけないんだから。慣れておかないとね」
「くるみ……」
長谷川がくるみをぎゅっと抱き締めて、耳元で囁く。
「俺もそばにいるから」
「うんっ」
12月に入ると仕事も忙しくなり、年末年始の予約客が増えた。職場ではくるみと長谷川は結婚指輪を外し、少しずつ仲が良くなったところを見せていた。その内、加藤や他の社員達がくるみと長谷川の仲を疑い始めた。2人は予定通りに進んでいる事に喜んでいたが、ある日ちょっとした事件が仕事中に起き、状況が一変する。
店に来た客に番号札を取ってもらい、軽いアンケートを渡しお茶を出して待ってもらっていた。番号順に窓口で呼び、長谷川の対応を待っている客以外をくるみや加藤が対応する。
「五番の番号札をお持ちのお客様」
くるみが立ち上がってそう呼ぶと、店頭のテーブルで待っていた2人の男性客が立ち上がり、くるみの元にやって来た。
「大変お待たせし、申し訳ございません。あっ、どうぞ、お座り下さい」
そう言って、男性客から番号札の紙とアンケートを受け取った。くるみは椅子に座り、アンケートの内容を確認して希望する地域のプランを男性客に提案する。パンフレットなどを見せ、観光地やおすすめのツアーやフリープランなど色々と提案した。
2人の男性客は見た目で言うと、20代後半でサラリーマン。営業をしているのか笑顔をよく見せ、くるみの話をよく聞き、ノリがいい。アクティビティのものに興味を持ち、料金などはさほど気にしない様子だった。
「お姉さん、いいねぇ。何て言う名前…?」
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