新婚生活

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男性の1人がそう言って、くるみに微笑み尋ねる。くるみは首からかけた社員証を見せ名乗った。 「松浦 くるみ と申します」 そう言って笑顔で頭を下げた。 「ふーん、くるみって、可愛い名前だね。彼氏いるの?」 「ありがとうございます…」 くるみは名前を誉められた礼だけを言って、質問には答えずパソコンの画面に目をやる。チラリと長谷川がくるみの方を気にして見ているのが分かる。くるみは冷静に仕事を続け、2人の男性客に尋ねる。 「どのようなプランになさいますか?」 するとさっきの男性客がもう一度訊いて来た。 「ねぇ、彼氏っている? いないならさ…」 ポケットから名刺入れを出し1枚出して、テーブルの上にあったボールペンを取り、サッと何か書き足すとくるみに差し出した。 「俺、松田(まつだ)って言うんだけど、今度食事でも行かない?」 「いえ、お客様困ります。仕事中ですので…」 くるみがそう言って、テーブルの上に置かれた名刺をそっと返して断ると、男性はもう一度名刺をくるみに差し出して言った。 「じゃあさ、仕事終わってから会える? 仕事何時まで?」 男性がそう言って来た時、隣から長谷川が手を伸ばしてくるみの肩を引き、身を乗り出して前に立った。 「失礼します。お客様」 「な、なんだよ!」 2人の男性客が目の前に立つ長谷川を見上げ、さっきの男性が声を上げる。店内は男性の声で一瞬にして静まり、やがてヒソヒソと声がし始める。くるみは長谷川の上着の裾を引っ張って「いいよ、長谷川」と止めるが、長谷川は1歩も引こうとしない。 「松浦はお客様の旅行を良いものにする為、プランのご提案をしております。まずはそちらに集中して頂き、ナンパは控えて頂けますか?」 「はぁ?」 男性が長谷川を見上げてニラみ凄む。長谷川はひるむことなくテーブルに片手をつき、体勢を低くして静かに言い返す。 「それが出来ないなら……とっとと、帰れっ! !」 今度は長谷川が男性に凄んで威圧した。すると隣に座っていたもう1人の男性客が割って入る。 「ごめんね。あの松浦さんも…」 くるみは長谷川の後ろから顔を出し、返事をする。 「あ、いえ…」 「お前が悪い! 失礼だろ。あんな可愛い子が、相手してくれるかよ」 男性は隣に座る松田という男性にそう言い聞かせて、長谷川を見上げる。 「えっと、長谷川さん?」 社員証を見て話しかけた。長谷川が返事をする。 「はい…」 「ごめんね。もしかして、君の彼女だった?」 くるみはその質問にドキッと驚いたが、長谷川は迷う事なくすぐさま答えた。 「はい、そうです!」 「えっ……あっ、ごめん…」 長谷川の返事に松田が、慌てて謝る。
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