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職場ではあの一件以来、くるみと長谷川の仲を応援する空気が漂い、何かと社員達が気を使ってくれるようになった。12月24日のクリスマス・イブは、恋人達が街に溢れる日。くるみと長谷川も社員達から隠れる必要がなくなり、2人でクリスマスを楽しむ事が出来る。
仕事を終えるとくるみは長谷川の車に乗り、長谷川が予約しておいた高級レストランで豪華なディナーを堪能した。今まで入った事がないようなレストランで、くるみは緊張しながら食事をする。
ガチガチに緊張しているくるみを見て、長谷川は笑いながらテーブルマナーを教えてくれる。いつ覚えたのか、普段から高級レストランで食事をする事があったのか、長谷川は緊張する様子もなくスマートにホールスタッフを呼び注文したり話をしている。
「光広って、本当に別人のようになるよね…」
「えっ? 別人?」
「うん。何ていうのかな……ほら、顔合わせの時、ブランド店で服を買ってくれたでしょ。あの時もそうだし、今だって……時々「本当に御曹司なんだ」って思うよ」
「まぁ、今まで必要なかったから、こんな姿を見せる事はなかったけど、子供の頃からテーブルマナーや男としての所作をたたき込まれているんだ」
「それはお母様から?」
「子供の時はそうだったな。でも中学に上がってからは、講師が来て教えてくれてたな」
「だから堂々としてて、自然にカッコよく出来るんだ…」
「カッコよく……かどうかは分からないけど、くるみをリードする事は出来るよ」
「ふふっ、うん。ありがとう」
食事を済ませホールスタッフが食器を片づけ、ケーキを持ってテーブルにやって来た。テーブルの真ん中に大きな丸いクリスマスケーキが置かれ、くるみと長谷川の前に紙ナフキンを置きフォークがそっと置かれた。
ホールスタッフは一礼してその場を立ち去る。
「クリスマスケーキまであるの?」
くるみが驚きながら長谷川に尋ねると、長谷川は優しく微笑んで頷き、フォークを持ってケーキに突き立てた。手首を捻りフォークでケーキをすくうようにして取り、くるみに差し出して言う。
「メリークリスマス! くるみ、あーん…」
くるみは思ってもいなかった長谷川の行動に驚いたが、あまりにも長谷川の優しい笑顔に目を奪われ、素直に「あーん」と言って口を開いた。
くるみの口いっぱいにケーキが入り、口の端についた生クリームを長谷川が指で取り、その指を舐める。
「甘っ! ふふっ、美味しい?」
「うんっ! 光広、切らなくていいの?」
「うん。いいんだよ、このまま食べるって言ってある。こうしてくるみとケーキを食べたかったんだ」
「ふふっ、そっか。じゃあ、光広、フォーク貸して」
くるみはフォークを受け取ると、ケーキをすくうようにして取り、長谷川に差し出した。
「光広、メリークリスマス! あーん」
くるみがそう言うと、長谷川は目を潤ませて幸せそうに微笑み「あーん」と言って口を開けた。
「うまっ! 今まで食べた中で一番、美味いケーキだな」
「ふふっ……そうだね」
くるみと長谷川は1つのフォークで交互にケーキを食べさせ合いながら、大きなケーキを堪能した。レストランを出て、車で街のイルミネーションの中を抜けて家に帰る。
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