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11
ミオリが帰る時には、もう雨が止んでいた。
この時期には珍しい通り雨だったのか。
雲の切れ目から、三日月が笑っている。
テーブルに置きっぱなしのスマートフォンが鳴った。
ディスプレイには、『課長』――暇な生き物の渡部さんだ。
定時はとっくに過ぎているのはご苦労なことだが、上手くいかないことは他人のせいにしないと気が済まないのはどうにかならないものか。
しばらくその光るディスプレイを見ていた俺は、ようやく手を伸ばし、応答を押す。
と、『島倉! すぐに出ろ!』と渡部さんから怒鳴れた。
俺は適当に相槌を打っていた。
『おいッ! 聞いて……』
気付いたら俺は叫んでいた。
渡部さんが仰天して『ひっ……!』と、怯えたように電話を切った。
不気味な声で叫んだつもりはなかったが、電話越しにいないはずの猫の鳴き声が大音量で聞こえたことも恐ろしかったのだろう。
しかし、情けない声だったな……明日が楽しみだ。
俺はにんまり笑った。
寝床に向かう。
猫だった時を思い出す。
瞼を閉じる。
今夜も、耳奥で疲れた優しい声が聞こえた。
君が今日もいてくれるから、俺はここにいる――
~了~
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