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 俺は、首を横に振った。 「知らない」  今の俺は、彼女の目からどう見えているのだろうか。 「知らないのに、この部屋の人間の振りをしているの? 頼まれたの?」 「……君には関係ないだろう」  俺が言える精一杯の言葉だった。  が、ミオリは首を横に振る。  そして、立ち上がったかと思うと、ゴミ箱に手を突っ込む。 「ちゃんと燃えるゴミの日に出さなきゃダメだよ?」  丸められた一枚の紙を手にしたミオリは、それを広げた。  俺は止めなかった。  もしかすると、誰かに知ってほしかったのかもしれない。  彼女が呟く。 「ごめんなさいもうむりです」  丁寧な字だが限界を迎えたそれは、ミオリの言葉ではない。  広げた紙のまん中に、ただその一行。  この部屋の主の最後の声だった。
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