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「あいつは、俺にご飯をくれる人間だったよ」  俺は、西日が差し込む部屋を見渡しながら言った。 「ご飯をくれながら、ここはペット禁止だから、とか、本当はこれもいけないことだけど、って言い訳してた」  ミオリは口を挟まず、椅子に戻った。 「帰ってくるのはいつも深夜でさ。寝ればいいのに、俺のご飯を持って待ってた」  この部屋の本当の主が立っていた窓際に目を留める。  今でも彼がそこに立っている気がした。 「雨の日は、こっそり部屋に入れてくれた」 「あなたがいたのは、あそこね」 「今でもあそこに寝てる。ベッドは汚したくないから」  二人して、今度は部屋に隅にあるタオルの敷かれた籠を見た。  そういえば、この部屋に入ってから俺のことを『シマ』とは呼んでいなかった。  ここでは、俺はそう呼ばれていなかったから、気を使ってくれているのかもしれない。 「その紙を見付けた日も、雨が降っていたな」
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