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「気付けば、俺は、……彼になっていた」  そんなことを誰が信じるだろう。  いや、誰にも信じられない方がいい。  知られず、信じられずに、俺は彼の時間を続ける。  いなくなった人間に金を払い続ける馬鹿な人間達を腹の底で笑いながら。 「どうして、お金がいるの?」 「彼には年老いた認知症の母親がいる。施設代がいるんだ」  彼は、仕事でも、プライベートでもキャパオーバーだったのだ。  こうなることは時間の問題だった。 「……まさに、猫の手、ね」 「それは間に合った時に言うことだよな」 「でも、誰にも気付かれないよりよかったと思う」  ミオリが悲しそうに言った。  俺は、自嘲気味に笑った。  さっきまであれほど晴れていたのに、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。  本当の主がいない部屋に、雨音がやけに大きく聞こえた。
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