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「一個人として、会いに来たんだ」
そう言いながら、彼の周囲に目をさまよわせる。
「ふん……面白いな。キミは今、全然意思を遮断していないんだ……ああ、ようやく見えにくくなった。でも、キミみたいな」
社内には聞かれたくない、サンライズは急いでマイクのスイッチを切る。
「キミみたいな超能力者もいるんだ。キミは何なんだい?」
「超能力じゃない」
「精神感応じゃないのか。それに……」
「完全には読めない」
言いかけて、地下道を駆け降りる数名を黙ってやり過ごす。
「とにかく、テレパシーとかそういう物とは違う」と、思う。ていうか、思いたい。
「この間、中華街でやろうとした、あれは何だ?」
では少しは効いていたのか。
仕方なく言葉を選びながら話し出す。
「相手から出ている意思の波長に合わせる。隙ができた時に、そこに働きかけて、相手の意思を動かすんだ、ことばを使って」
説明すると、なんだかとてもカンタンな事に聞こえる。
「やっぱり、そうか」
エリーは手すりに指をすべらせた。
「この間キミを刺さなかった理由は、それだ」
「この間は効かなかったはずだ」
そう、エリーの心につけ入る隙がなかったのだ。
「いや。力にやられたんじゃない。気がついたからだ」
「何に」
「ボクを助けてくれるかもしれない、ってさ」
言ってることが判らない。
エリーはまた、階段を降りようとした。
「条件がある」
サンライズはその場に立ち止まったまま言った。
「一緒に行って話を聞く。そうしたらカスガの事はあきらめてくれ。殺すのを」
「ああ……しかしもう契約済みなんだ。先方は期限を守らなかったと言ってカンカンだったが、もう一度チャンスをやると言われた」
「では行かない」
「もっといい条件がある」
エリーは、ゆっくりと階段を上って来た。
「キミが来てくれて、頼みをきいてくれたら……ボクをやろう」
不審げに眉をあげたのを見て、エリーは言った。
「ボクは自首するよ、そうすればカスガの件もチャラだ。雇い主も自白すればいいんだろう、どうだ? いい条件だと思わないか」
あぜんとつっ立ったままのサンライズに近づき、襟の発信器をむしり取る。
「キミたちはいつも同じ場所に付けるんだよね、これを」
電話も貸して、と簡単にむしられた。
彼はくるりと踵を返し、たまたま近くを通りかかった若い女性のでっかいバッグにそれを二つとも放りこんだ。そして、
「来てくれ。ボクの家に招待する。そこでもうひとり待ってるから」
そう言うと、後も見ずに階段を下りていった。
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