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電車の中では、どちらも黙ったままだった。
電車を乗り継ぎ(エリーは、電車の券を全部サンライズの分まで用意してくれていた。お気遣いありがとう)、約一時間半後に東京郊外のマンションに到着した。
群れになった高層住宅の中のひとつに入り、エリーは最上階のボタンを押す。
23階がペントハウスになっていた。そこが住居らしい。
ドアを開けると、明かりは灯っていた。どこかからかすかに子ども番組の歌が聞こえてきた。が、ほかの場所はしん、としていた。
「入ってくれ」
それほど暖かくはない。それに、何と言うのか、生活のにおいがしない。
「コートはそこにかけて」
きっちりと片付いて、凝った調度もロクにない。
もうひとり待っている、と言ったがそれらしい声もしない。
もう寝てしまったのだろうか?
エリーが、少し入って右側のドアをそっと開けた。
病院にあるような電動ベッドの傍らに、年配の女性がひっそりと座っていた。
「あ、おかえりなさい」
立ち上がって、サイドボードの片隅に乗せたあったラジカセのつまみを少し回して、音を低くした。
優しげな音楽が白い壁に吸い込まれるように思え、急に静けさが増した。
サイドボードには他にも、医療品や機材の細かい備品が、整然と並べられていた。
「出かけてからは、発作はありませんでしたよ」
「ありがとう」
女はサンライズに気づき、穏やかな笑顔で軽く頭を下げた。それからエリーに何の警戒心もない表情で向き合った。
「明日はいつもみたいに九時からで?」
「お願いします」
エリーは、女が帰るのを見送るため、玄関まで出ていった。
残されたサンライズは、ベッドの上に目をやった。
ベッドには、小さなふくらみがあった。頭と片手の先だけ出ている。
「娘の、恵莉だ」
戻ってきたエリーが言った。彼のコード名はここからきたのだろうか。
「今年、十歳になる」
サンライズは近づいて、彼女を見おろした。
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