08 対話

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―― ことば? 何? それ。  恵莉がいつの間にか、彼の目の前に立っていた。  自分の足で。  幻影のあまりの鮮やかさに、サンライズは何度か目をしばたかせる。  大きな目に意志の強そうな眉、父にそっくりな整った顔だ。普通に成長していればちょうどこんな感じなのだろう。  自分の夢の中だろうか、それとも相手の夢?  それとも、自分の力はここまでできるのか、いや、これはエリーの持つ能力から来ているのか。  考える暇も惜しい、彼はまた目の前の少女に集中して、語りかける。 「エリちゃんの頭の中に、イヤな気持ちがぐるぐる回っているだろう」 ―― うん。 「おじさんは、そのぐるぐるを止めることができるんだ」 ―― ホントに? 「そして、ざあっと、洗い流してしまう」  ねえパパ、そうだよね? とサンライズはベッド下に声をかける。  エリーは黙っていた。  でもサンライズには彼の心の声がきこえた。多分、エリから反響して聞こえるのだろう。 「そうだよ、恵莉、その人を信じるんだ」 ―― わかった。  エリはね、パパにないしょにしていたことがあるんだ。  ほんとはね、ペットが飼いたいんだ。  わかるよ、アパートだから無理でしょ。それにパパはペットって言うと 「でもすぐ死んでしまうからねえ」  と渋い顔をする。でもね、友だちのユキちゃんちには、チワワがいるし、サッちゃんもこないだ、ネコもらったんだって。  エリね、飼うとしたら犬も好きだけど、一番好きなのは、ウサギ。  だってふわふわして、かわいいんだもん。 「知らなかった」  エリーの目から、涙が落ちた。 「……全然、知らなかった」  サンライズは意識を集中する。そうか、ウサギだったんだ。 「エリちゃん、ふたりでここに、ウサギを呼ぼう」 「どうやって?」 「ぎゅっと目をつぶって、そう、それから、心の中で、ウサギをイメージするんだ、どんなのがいい?」 「小さいの、それから、茶色! 目がまん丸くて、黒いの、それから……」  向かい合うふたりの足元に、淡い光の粒がうまれた。  光は少しずつ大きく丸くなって、形になってきた……小さなウサギの姿に。  ようやく形になったものをサンライズは抱き上げ、胸元に抱いて恵莉の前に進む。 「エリちゃん、ほら、ウサギだよ」  薄茶色の、ふわふわした毛。つぶらな黒い瞳。  耳の形が丸っこい。鼻がぴくぴくしているが、とてもおとなしい。 ―― わあかわいい。だっこしていい? 「いいよ、そっとだよ」 ―― うん。 「今日から、エリちゃんがお世話するんだよ」 ―― え、いいの? くれるの? 「だいじにしてくれる?」 ―― うん、たいせつにそだてる。でもこれ本物じゃ、ないよね? 「うん。でも今度家に帰ったら、ちゃんと本物のウサギを用意しておくよ」 ―― わぁい、やった。ありがとう。  目の前の恵莉はまっすぐすんなりとした足で立ち、細い腕にウサギを抱え、満面の笑みを浮かべていた。  しかし兎を見ながら、こう訊ねた。 「ねえ、おじさん。  ウサギはいつか、死んでしまうんでしょ?  それから、ニンゲンも」
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