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「そんなのおかしいでしょ?
いくらアンドロイドだからって………ねぇ、おかしいでしょ?!」
テーブルを叩きつけるとティーカップは床に抛られ、砕け散った。
伊織が誕生日に買ってくれた、淡い桜色のティーカップ。
バラバラになってしまえば、もう元には戻らない。
肩で息をしているとノックが聞こえた。
「咲良、なにか割れた音がしましたけど……あ、カップが。
大丈夫ですか? 怪我は?」
「怪我はないよ。ごめんね、伊織。
せっかくプレゼントしてくれたのに……」
「怪我がないのなら良かったです。
カップはまたプレゼントしますよ。
僕も新しいカップが欲しかったから、ちょうど良かった」
眼鏡越しに伊織が微笑み、艶のある黒髪が僅かに揺れた。
私は何度この笑顔に救われただろう。
「すぐに破片を片付けますね」
「私がやるからいいよ」
「いいえ、僕が片付けます」
「伊織、夕飯の支度をしてたんでしょ?
私だってもう、子どもじゃないから片付けくらい出来るよ」
「……わかりました。咲良にお願いします。
手を切らないように気をつけてくださいね」
「わかった」と頷くと、伊織はそっと頭を撫でた。
私への子ども扱いは昔からずっと変わらない。
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