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 女性の家は、昔ながらの日本家屋という感じだった。門は大きいし、玄関は土間だし、庭に面した廊下には大きな窓が並ぶ。  廊下を歩いて雪見窓のついた障子を引く。昔のままの家具が置かれた居間に案内された。  畳の上には、きっと冬にはこたつになるような座卓が置かれている。 「そこに座ってて。今肉じゃがを温めちゃうから」  そう言われ、座卓の前に座り込む。部屋を眺めながら、壁際の棚に置かれた写真たてが目に入った。家族写真かな……たくさんの人々がカメラに向かって笑顔を向けている。  ぼんやり見つめていた時、私の目に一人の男性が飛び込んできた。思わず目を見張り、写真たてに手を伸ばすと、改めて彼の顔をじっと見つめる。  その瞬間、涙が溢れてくる。 「あらあら! どうしたの⁈」  部屋に戻ってきた女性が驚いたように駆け寄る。 「あの……この人って……」 「ん?  あぁ、孫の優樹(ゆうき)のこと?」 「優樹さん……」 「おや、この子のこと知ってるの?」 「昔会ったことがあるんです……でも全然あの頃と変わってない……」 「そうなの。あの子童顔なのよねぇ。それが悩みみたいだけど」  写真の中の彼の笑顔を見ていると、あの時の淡い感情が蘇ってくる。  幼過ぎてわからなかったけど、やっぱりあれは"恋"だったのかな……。写真を見ただけで、こんなにもドキドキするの。  それとも私が弱っているから、そう感じてしまうだけ? 「優樹と知り合いだったなんてびっくりねぇ。最近は仕事が忙しいって言って、全然帰ってきてくれないのよ〜」 「そうなんですか……」  そうか、そうだよね……。あの時だって大人だなって思った。今はもう社会人なんだ……。より一層距離がひらいてしまったような気がした。
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