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「あなた、お名前は?」 「猫田(ねこた)美衣子です……」 「あら! 猫のみーちゃんなのね! すごいじゃない。じゃあみーちゃんって呼んでもいい? 私のことは気楽におばあちゃんでいいから」  するとおばあちゃんはにっこり微笑んで私を見た。 「ねぇ、優樹の話、聞きたい? いろいろ教えちゃうわよ」 「いいんですか⁈ 是非知りたいです!」  私は彼のことを何も知らない。知っているのは柔らかな笑顔と、声くらい。だから懐かしい彼のことを、もっと知りたいと思ったのだ。  それからおばあちゃんは、私が遊びに行くたびに優樹さんのことをいろいろ教えてくれた。  昔から外遊びが好きで、生傷が絶えなかったこと。いつもおばあちゃんの家に通っては、夕食前の間食をしていたこと。サッカー部員でかなりモテていたこと。優しくてお人好し、困っている人を放っておけないタイプということ。  知れば知るほど、彼に会いたくなってしまう。 「今って……彼女とかいるのかな……?」 「うふふ、みーちゃんにそう言われると思って、実は探りを入れておいたのよ! 今はいないらしいわ」  それを聞いてホッとする。 「みーちゃんは優樹のことをいつから好きなの?」 「……初めて会った時は憧れみたいな感じだったの。高校生なんて、私から見たら大人だもん。だから……不思議なんだけど、おばあちゃんの家でこの写真を見て……なんか一目惚れみたいな感じだった」  彼を見た瞬間、胸が熱くなった。彼だけがキラキラして見えた。それが恋が始まる合図だったように思う。 「ふーん……それは素敵ねぇ……。そういえば優樹から年賀状が来てたの。見る?」  私が頷くと、おばあちゃんは棚から年賀状の束を取り出し、一枚引き抜いた。 「また会いたいわねぇ……そうだ! どら焼きもらったんだった! ちょっと取ってくるわ」  おばあちゃんは年賀状を座卓の上に置いたまま、台所へ行ってしまった。  残された私はその年賀状を手に取る。おばあちゃんを気遣う優しい文章と、きれいな文字。そして目に飛び込んできたのは彼の住所。  個人情報だからダメ! そう思うのに、頭に叩き込もうとする自分がいる。 「お待たせー。さぁ食べましょう」  おばあちゃんが戻ってきた頃には、頭の中に完全に暗記していた。
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