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母の口元も、聞いている皆の口元もほころんでいた。全員が母の次の言葉を待ち構えていた。
「あなたと結婚したら、私、クサオムツヨになってしまうじゃない」
部屋中が爆笑の渦に巻き込まれた。
「ああ、恥ずかしい。茂樹さんったら、約束を破って大笑いしたのよ」
母は笑いが収まるのを待って、再び口を開いた。
「だけど、こう言ってくれたの。『笑ってごめん。そんなこと簡単だよ。僕が君の家の婿になる。それなら、君は白石睦代のままだ』。こういうわけで、私、あの人と結婚しようと決めました」
一同拍手喝采をした。娘が俺にささやいた。
「この話、何度聞いてもウケるんだけど」
「しっ、初めて聞くふりをしてあげるんだ。みんなおばあちゃんが大好きなんだからな」
(了)
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