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そこへ、いよいよここへ赴いた、本来の目的を口にし始めた尊の、感情のこもらない淡々とした重低音が轟いた。
「だったら、こう言えばご理解いただけるだろうか。お宅のバカ息子が若い局アナに手を出して、孕ませた挙げ句に中絶させ、はした金で解決した件でお伺いしました」
途端に、場の空気がピンと張り詰める。
まさか、愼がそんな酷いことをしていたとは夢にも思わず、驚きはしたが、妙に納得している自分もいる。
そこへ再び尊の淡々とした重低音が轟く。
「その際に、佐久間先生経由で、極道組織である極心会の構成員を利用したようですが。ずいぶんと強引だったそうじゃないですか。その件で、誠意を見せていただきたい。ただそれだけのことですよ」
尊の言葉に、両親、特に薫の表情からは、一瞬、血の気が引いた気がした。
だが、慌てて薫が放ったのは、尊から詳細を一切聞かされていない美桜からしても、白々しいとしか思えない言葉で。
「……そ、そんなことを言われましても、まったく身に覚えがございませんわ」
当然、美桜だけでなく、尊にもそう聞こえていたに違いない。
けれど尊は特に怒るでもなく。ここへ通されたときから一貫して無表情を決め込んでいる。
美桜は、尊が両親とどうやって話をつけるのかを固唾を呑んで見守ることしかできずにいた。
「そうですか。残念です。それでは、この件はメディアに包み隠さず公表させていただきます。そうでもしないと、先方のご両親が納得されませんので」
「待ってください。あなた、脅迫するつもりですか? 通報しますよ」
「どうぞ、お好きにされてください。あちらは、返事次第で訴えるつもりのようなので、困るのはあなたがただ。私は、先方の代理できたに過ぎない。なんなら今ここで、通報してもいいんですよ」
「……わ、わかりました」
「ご理解いただけたようでよかったです。先方には、その旨お伝えしておきます。それでは、ここからはビジネスの話をいたしましょうか」
「えっ!? ビジネス? ど、どういうことですの?」
「実は近く、ハッピーフラワープロジェクトに先方の父親が経営されてる会社とともに、我が社、T&Kシステムズも参入します。それに伴いーー」
尊のことを疑っていたわけではないが、両親と話をつけるなんてこと、到底無理だとしか思えないでいた。
そんな美桜の懸念を、尊は、昨日優太郎のことを名刺一枚で黙らせた際のように、たやすくあっさりと払拭してしまったのだ。
内訳は、実に単純なものだった。
フラワーロスをなくすための、国を挙げての、ハッピーフラワープロジェクト。
それに参入するに当たり、専門家の監修が必要になるとかで、老若男女問わず、幅広い年齢層をターゲットにするため、師範の腕前であり家元の娘である美桜のことを起用したいというのだ。
もちろん、それだけではない。
経営者である尊の元には方々から縁談話が舞い込んでくるらしく。それらを角を立てずに躱すためにも、美桜のことを嫁にしたいと言い出したのだ。
つまり、先方と示談を成立させる代わりに、華道の専門家に美桜を起用すること。そして、その件について、一切他言しないことを条件に、美桜との政略結婚を成立させたのである。
極道組織•極心会の若頭としてではなく、T&Kシステムズの経営者である九條尊として。
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