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政略結婚の話も纏まり、結納や挙式の日取りなどもあらかた決まった。
既に両親は他界し天涯孤独の身であるのだという尊。それを考慮し、挙式も家族だけで執り行うこととなった。
つい先程、両親との話し合いを終え天澤家を後にした美桜は、黒塗りの高級車の中で、尊からの説明に耳を傾けているところだ。
尊と両親との間で、どんどん話が進んでいく様子を美桜は不思議な心持ちで眺めることしかできないでいた。
未だ、なんだか夢でも見ているような心地がする。
「疲れてるなら、日を改めるが」
「あっ、いえ、大丈夫です」
「そうか。なら、会社のことから説明するがーー」
なんでも尊は、ビジネスにおいて表だってのことに関しては、起業当時からずっと尊のことを支えてくれている、大学の同期であり古くからの友人でもある、副社長の阿久津匡に一切を任せているらしい。
なのでメディアでの露出などは、全て阿久津が担ってきたそうだ。
そして極道組織・極心会の若頭として動くときには、所謂渡世名の鬼頭という姓を名乗っているのだという。
そのため現時点では、T&Kシステムズの経営者がまさか極心会の若頭だとは、誰も気づいてはないらしい。
そういえば、昨日ヤスから渡された名刺に『鬼頭尊』と記されていた気もするがとても曖昧だ。
まさか今をときめくIT企業の経営者が極道者だとは夢にも思わないだろうし。案外そういうものかもしれないと腑に落ちた。
鬼頭という姓は、大学への入学を目前に控えていた時期に、両親を事故で亡くした尊のことを引き取ってくれた、両親の旧友・鬼頭櫂(極心会の会長)から拝借しているのだとか。
極道の世界に脚を踏み入れたのも、世話になった櫂への恩義からだそうだ。
初対面でも感じたように、カリスマ性のある尊のことだから、元々そういう素質があったのかもしれない。
まだ右も左もわからないペーペーの三下だった頃より、組織の中でもダントツの収益を上げていて、気づいたときには、現在の地位まで昇り詰めていたらしい。
そこまで話してくれた尊がどういうわけか、急に無言になってしまう。
無表情を決め込んでいる尊の表情からも何も読み取れない。
お喋り好きなヤスがいた昨日とは違い、広い車内が重苦しい沈黙に包まれる。途端に、緊張感と息苦しさとを覚えた。
美桜は、身に纏っている淡い薄桃色の上品な訪問着の胸元を手で抑えてぐっと堪えしのぐ。
静かに走行している車のエンジン音が心臓の鼓動を刻む音に掻き消されていく。
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