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もしかしたらこれは、尊のことを好きだから、そう感じただけかもしれない。
もしくは、そうだといいな、という、願望の表れなのかもしれない。
それでもいい。この人の傍に居たいという自分の気持ちを尊重したい。
これまでは家の駒として生きてきた。これからは自分のために生きていきたい。
ーー昨日、出逢ったばかりだとか、住む世界が違うだとか、そんなの、関係ない。
この人が与えてくれた機会を逃したくはない。
自分の人生だ。後悔のないように、精一杯生き抜いてみせる。
今は一方通行の想いでしかなくても、いつの日にか、この人と本当の家族になりたい。
ーーこんなこと思うなんて、烏滸がましいことかもしれないけれど、そっと胸に秘めておくくらい、いいよね。
尊からの言葉に、改めて覚悟を決めた美桜は、キッパリと答えてみせる。
「後悔なんてしません」
頑なな美桜の言葉に、尊はしばし驚いたような顔をしたが、瞬時に感情の一切を排除して、淡々と言い放つ。
「なら、俺の嫁として、俺の子供を産んでもらう。それでもいいのか?」
それにはさすがに驚いて、美桜の声は裏返ってしまう。
「え?」
尊は、美桜の反応が予想通りだったのか、フンッと鼻を鳴らしてから笑み交じりの声を放つ。
「嫌なら、フリだけの偽装結婚で構わないんだぞ」
それくらいの覚悟ならやめておけ。とでも言うような言い草だ。
だが覚悟なら、もうとっくに決めている。これくらいのことで今さら逃げ出したりしない。
依然見下ろしたままでいる尊の目を真っ直ぐに見つめ返し、キッパリと言い切ってみせる。
「吃驚しただけで、別に嫌なわけじゃありません」
すると尊は、やはり一瞬、驚いたように目を瞠った後で、感心したような声を放つ。
「昨夜も思ったが、案外、強情だな。まぁ、いい。それくらいでないと、極道の姐さんなんて、務まらないからな」
どうやら美桜の覚悟が通じたようで、ほっと胸を撫で下ろす。
だがしかし、いくら腹を括ったとはいえ、こんなところで事に及ばれては堪らない。
未だ美桜のことを組み敷いたままの尊の下で、美桜は途端に狼狽え始める。
「////ーーあ、あのっ、でも、ここでは……ちょっと」
尊は、なんだか愉快そうに口元に妖艶な微笑を湛え、ニヤリと口端を吊り上げた。
そうしてゆっくりと組み敷いた美桜の身体になおも覆い被さってくる。
なにやら嫌な予感を感じて、美桜の心臓は、ドクドクと激しい鼓動を打ち鳴らし始めた。
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