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その間にも、尊はゆっくりジリジリと焦らすようにして、美桜との距離を詰めてくる。
いつしか吐息のかかりそうな近い距離に尊の端正な相貌が迫っていた。美桜は思わずギュッと目を瞑る。その刹那。
尊は美桜の耳元で、ふっと軽く笑みを零した。
「こんなところで処女のお前を抱く気はないから安心しろ。抱くなら、たっぷりじっくり時間をかけて、嫌というほど可愛がってやる」
たっぷりと含みを持たせた尊からの意味深な台詞に、美桜は見る間に、顔どころか全身まで、紅く色づけられてしまう。
真っ赤になって身悶える美桜のことを満足そうに見遣ると、尊はあっさりと美桜の身体から退いた。
そうしてさっさと身なりを整えると、長い脚を組み、前髪を掻き上げる。
ただそうしているだけで、絵になってしまうのだから、なんとも羨ましい。
特に、今日は政略結婚の申し入れをするということで、英国産のクラシカルなブライトネービーのスリーピーススーツをチョイスしているらしい。
おそらくオーダーメイドだろう。上品な光沢を放っている。
昨日のダークスーツとは違い、雰囲気も爽やかで、とても若々しく見える。
なにより、とても似合っていて、極道者には見えない。どこからどう見ても、IT企業の経営者である。
なんともスタイリッシュな尊の姿に、知らず魅了されてしまっていた美桜はポカンと見蕩れてしまっていた。
ーー凄く似合ってて、素敵だなぁ。こんな素敵な人と、結婚するんだ。奥さんになって、尊さんの子供まで……!
羞恥も忘れ、呑気なことを思考しているうち、子作りの過程を連想してしまう。
途端に昨夜のアレコレの記憶が蘇り、ボンッと発火しそうなほど、顔に熱が集中する。
焦った美桜は、大慌てで起き上がり、着物の乱れを手早く正した。続いてシートベルトを締めようにも上手くいかない。
焦れば焦るほど、ガチャガチャと金属音を響かせるだけだ。
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