3807人が本棚に入れています
本棚に追加
そうこうしているうちにも、尊と櫂のやり取りは続いていて……。
「そんなことより。今日から新居が決まるまで、しばらくは一緒に暮らすことになるんだ。親睦を深めるためにも、今夜は前祝いに一杯付き合え」
「あ、いや、しばらく忙しくなりそうだし。こいつも疲れてるだろうから、部屋でゆっくり休ませてやりたいんで。すみませんが」
「ほ~。親代わりの俺のことほったらかして、若い女とイチャコラするとは、いー度胸じゃねーか」
「……違いますって。俺も疲れてるんで、この辺で失礼させていただきます。それでは」
「まーせいぜい子作りに励んで、可愛い孫の顔、早く見せろよ」
「……気が早すぎますって」
「////ーーッ!?」
櫂のあけすけな物言いに不慣れな美桜のことを気遣ってか、櫂からの酒の誘いを断った尊に連れられて、美桜は羞恥に悶えつつ大広間を後にしたのだった。
そうして連れてこられたのは、二階にある洋室。両親を亡くして櫂に引き取られて以来尊が使っていたという部屋だ。
この春、若頭に襲名したばかりで、IT企業の経営者と極道組織のナンバーツーとしての二足のわらじを履くことになったのだという尊。
多忙なため、ホテル住まいを余儀なくされてはいるが、時間の都合がつけば、この部屋にも戻ってきているらしい。
物は少ないが、必要最低限の家具もあるし、綺麗に掃除もなされているようだ。
部屋は二十畳ほどの洋室と十五畳ほどの和室が一室ずつ。入ってすぐがリビングで、引き戸で仕切られた向こう隣は寝室になっていた。
もちろんウォークインクローゼットもある。
その隣には、それぞれ独立した簡易キッチンに浴室、トイレまであるという充実ぶりだ。
先程の櫂の言葉通り、新居の準備が整うまで、しばらくここで寝起きすることになると、車中で尊からも聞かされていた。
ーーここで尊さんと一緒に暮らすんだ。
なんだか不思議な気持ちで、部屋をぐるりと眺めていたところ。
不意に、奥の寝室の大きなベッドの存在に気づいた途端、櫂の孫発言を思い出してしまった美桜は軽く動揺してしまう。
ちょうどそこに、尊が簡易キッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターを手にして戻ってきた。
そうして美桜の背後にあるローテーブルに、尊が二本のペットボトルを置く音がして、すぐに声をかけてくる。
「そんなとこで突っ立って、なにぼーっとしてんだ。疲れただろ? ヤスに着替えも運ばせてあるから、着替えたらどうだ?」
動揺していたせいで、美桜は思わずビクッと肩を跳ね上げてしまう。
そんな美桜の様子から、何かを察したのだろう尊によって、あっという間に、背後から抱きしめられてしまっていた。
そこへすかさず耳元に尊が顔を埋めてきて。
「なんなら、俺が脱がせてやろうか?」
昨夜、散々翻弄させられてしまった際に、嫌と言うほど耳にした、ゾクゾクとするほどの色香を孕んだ重低音で囁かれてしまっては、美桜にはどうすることもできない。
ただただ真っ赤になって身悶えることしかできないでいる。
最初のコメントを投稿しよう!