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羞恥に塗れながらも、美桜の頭の片隅には……。
ーーいよいよ尊さんのものにしてもらえるんだ。
そんな期待感に胸をドキドキと高鳴らせてもいた。
ところが次の瞬間、ふっと笑みを零した尊は意外すぎる言葉を口にする。
「真に受けるな、冗談だ」
「……へ?」
呆気にとられた美桜は、素っ頓狂な声を漏らしていた。
間抜けな顔で突っ立ったまんまの美桜の頭を尊はポンポンと優しく撫でつつ、背後から美桜の顔を覗き込んでくる。
そして低身長の美桜に目線を合わせると、あたかも小さな子供にでも言い聞かせるように、優しい声音で囁いてくる。
「昨日から色々あったんだ。疲れただろう? 早く着替えてゆっくり休め。食事も時間が来たらここに運ばせる。俺のことは気にせず休んでろ。いいな?」
時折見せてくれる優しい笑顔を湛えた尊の端正な顔に惹きつけられた美桜は、なにも言えず尊の声に耳を傾けることしかできないでいた。
だが尊の言葉にゆっくり顎を引いて応えた美桜の姿を満足そうに見届けると、すぐにすっと美桜の身体から離れて行こうとする。
ただ美桜の身体から退いただけで、どこかに行こうとしているわけではないのかもしれない。
けれども、昨日から何度も経験した記憶が呼び起こされる。
ーーまたひとりにされてしまう。
そう思ってしまった美桜は、離れていこうとする尊の背中に咄嗟にしがみついていた。
顔が見えないのをいいことに、一思いに尊に『抱いて欲しい』と伝えようとしたはずが……。
「私、恥ずかしかっただけで、疲れてなんかいません。だから……早く、……た、尊さんの……尊さんの、ものに……して……ください。お、お願いしますッ!」
いざとなると、やはり恥ずかしくて、言葉が途切れ途切れになってしまう。
それでもなんとか言い切ることができた。
そのことにホッとしたせいか、最後の言葉は思いの外威勢のいいものとなってしまったがしょうがない。
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