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「萩尾さんは、何故か動物に好かれないみたいなんだ。いつもなら自由に動き回ってるのがもう三匹いるんだけど」
それを聞いて、智里は目を丸くする。
「三匹……?」
「ブチ、キナコ、シマ!」
匠がそう呼ぶと、どこからか小さな鳴き声が聞こえてくる。その声は明らかに……
「猫!!」
「あの子たちは知らない人に対して警戒心が強いから、隠れちゃってなかなか出てこないんだけど、馴染みなはずの萩尾さんにもいまだに警戒するんだよねぇ」
凛香の言葉に萩尾が凹みまくる。
「うううう……。僕が何をしたっていうんだ……」
「萩尾さん、そんなに落ち込まないでください。えっと、あの、ほら! 萩尾さんって大きくてがっしりしてるし、ちょっと怖いのかも」
「ちーちゃん、それ、あんま慰めになってないよ?」
「僕だって好きでこんなデカイわけじゃないんですよー! 僕だって好かれたいのに! 僕はみんなが大好きなのにっ!」
凛香の言うように、萩尾はますます凹んでしまったようだ。
ただ、項垂れて身体を小さく丸めている萩尾の元には、いつの間にかコハクがいた。「コハクー!」と首に抱きつく萩尾に好きなようにさせている。なんてできた犬なのだろう。
智里が感心していると、匠は聞き逃してしまいそうなボソボソ声で更に言った。
「あと、ホーランドロップが二羽、アフリカオオコノハズクが二羽いる」
「はぁ!?」
思わず大声で叫んでしまった。
ホーランドロップとは垂れた耳が特徴の小柄なウサギで、アフリカオオコノハズクは黒い縁どりのある真っ白い顔が特徴で、くりっとした目が大きく可愛らしい顔のフクロウだ。
「ちょっと待って! ここには大型犬に猫、ウサギにフクロウが一緒にいるの!?」
「ウサギとフクロウは、それぞれ個別の部屋にいるけどな」
「猫が勝手にウサギの部屋に入ったりしないの? あれ? フクロウも大丈夫?」
「とりあえず、共存してるな。前にウサギ部屋に猫が入ってたことがあったけど、お互い物珍しそうに見つめ合っていた」
「それは……よかった」
普通なら一緒には飼えないだろうに、この大きな家と個々の性格で、それを可能にしているらしい。
「お世話が大変だね……」
餌や水の用意に居場所の掃除、ブラッシングやシャンプー、犬二匹は散歩も。匠は一人でそれを全部やっているというのか。
「でしょう? まぁ、お兄ちゃんは家で仕事してるし普段はそうでもないんだけど、締切が迫ってきたリ煮詰まったりすると家のことがおざなりになるからねー。みんなのお世話はしても自分のお世話はしない。一度それでぶっ倒れたことがあって。それ以来、時々萩尾さんがヘルプに来てくれてるんですよねーっ」
「はははは。まぁ、打ち合わせや進捗確認がてらって感じなんですけどね。あまり頻繁には来られないんですが」
なるほど。それであの提案なのか。
納得はしたが、だからといって、じゃあいいですよ、とはいかない。
そもそも匠の意思は? 匠は他人が近くにいると落ち着けない質だ。地元にいるのに実家を出て一人暮らしをしている。それは、一人の方が気楽だからではないのか。それなのに、智里が一緒ということになると──。
「お兄ちゃん、空いてる部屋はまだあるでしょ? まぁ、空いてなかったらお兄ちゃんと一緒でいいと思うけど」
「凛香! お前、なに言って……」
「だぁって! ちーちゃんならお兄ちゃんを安心して任せられるし、お兄ちゃんだってちーちゃんなら平気じゃん!」
「智里は帰省してるんだぞ? ご両親だって久しぶりに智里が帰ってくるのを楽しみにしてるだろ!」
「何もここに閉じ込めるわけじゃないんだし、普通に会いに行けばいいじゃん」
「お前な……」
匠が頭を抱えてしまっている。
この兄妹のやり取りを見るのも随分と久しぶりだ。相変わらずの調子がなんだか懐かしい。
常識的な匠と、自由な凛香。凛香はいつも匠を好き放題に振り回し、匠はいつもそれにお手上げ状態なのだ。しかし、凛香の言っていることは兄を心配するが故のことで、なんだかんだ言っていても仲がいい。そんなところも変わっていない。
それが微笑ましくてクスクスと笑っていると、凛香が今度は智里に迫ってきた。
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