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「ちーちゃん、ダメ?」
「えっ」
「頼めないかなぁ?」
「いやいやいや、匠だって困るでしょう?」
「お兄ちゃんは困らないよ? むしろ大歓迎だよ?」
「凛香!」
「あははははは!」
萩尾が堪えきれずに笑い出した。そしてまた、リアンが喜び庭駆け……ではなく、リビングを駆け回る。さすがに今度はコハクもスルーだ。智里の側に戻ってきて、智里の顔を見上げている。
「クゥン……」
小さな声で鳴き、智里の袖を咥えて軽く引っ張る。その後、匠の方をじっと見つめた。その視線を受け、匠がますます頭を抱えた。
「ほらぁ、コハクもここにいてって言ってるし!」
「そんなこと……って、コハク、そんな目で見ないで……」
匠を見つめた後は、再び智里を見つめる。そのつぶらな瞳に、ついつい絆されそうになる。
「先生、咲坂さんがいてくださったら、順調に進むんじゃありませんか?」
「あ……そういえば、缶詰って」
「そうなんですよ。今ちょうど煮詰まってるらしくて。咲坂さんならみんなもすぐに懐きそうだし、先生も安心して執筆できるんじゃないかと思うんですが」
「萩尾さんまで何を言ってるんですか……。帰ってきたばかりの智里にこんなこと、迷惑でしょう」
大きく吐息しながら呟く匠に、智里は首を傾げた。
智里にとって迷惑だというが、そうでなければどうなのだろうか。匠自身は、智里がここにいることになってもいいのか。助かると思うのか。
そう思った時には口に出ていた。
「匠は迷惑じゃないの?」
「え」
匠の動きが止まる。
「匠って、側に誰かがいると心休まらないでしょ? だから一人暮らししてるのかなって思ったんだけど」
「あー……いや、まぁ、それもあるけど」
匠が頭を掻きながら考えあぐねている。しかしそれは、すぐさま凛香によってぶち壊された。
「両親は共働きだし、私も就職したし、日中は静かなもんよ? でもね、リアンを引き取る時に、お兄ちゃんはドッグランが近くにある場所に引っ越そうって思ったらしくて。そうこうしてるうちに作家でめちゃくちゃ稼げるようになったもんだから、実家をリフォームして、ついでに自分の家も建てちゃったの。コハクとリアンのために庭にドッグランも作ってさ。そしたら、何故かいろんなご縁があって、保護猫三匹を引き取ることになって。ウサギとフクロウ二羽は、倒産しちゃったウサギカフェとフクロウカフェからやって来て。なんだかミニ動物王国みたいになっちゃったんだよねぇ。確かに一人は気楽でいいんだろうけど、家族は平気なんだからちーちゃんだって平気だよ。ちーちゃんは、黒須家にとってはもう家族も同然だから」
家族も同然。
昔からずっと家族ぐるみの付き合いなので、そう言ってもらえると嬉しい。
咲坂家でも、匠と凛香は息子と娘扱いだ。
大人になった今でもそんな関係が続いているというのは、本当に嬉しい。
「お兄ちゃん、ちーちゃんなら平気よね? というか、歓迎でしょ?」
「うるさい」
「もーぉ、素直じゃないなぁ。お兄ちゃんじゃ埒が明かない! ちーちゃん、お願いできるかな? もちろん、この家とお兄ちゃんと動物たちのお世話なんて大変なことをお願いするんだから、タダとは言わない!」
智里の耳がピクリと反応する。
会社にまだ籍はあるとはいえ、休職の身の上だ。休職の間は給料は出ない。
これまでの蓄えがあるのですぐに困るわけではないが、収入があるならそれに越したことはない。
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