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01-1.現在~過去
池袋駅から、西武池袋線特急ラビューに乗り込む。
特急ラビューとは西武001系電車のことで、運転席の窓が丸く、近未来的なメタリックシルバーの車体が印象的である。
そんな外観とは打って変わり、車内はどことなく可愛らしい雰囲気に包まれている。驚くほど大きな窓は開放的で、丸みを帯びた座席の背の部分は黄色で華やか。乗っているだけで楽しくなりそうな、そんな列車だ。
「いい天気……」
流れる景色を眺めながら、咲坂智里は小さくそう呟いた。
平日、しかも混雑する時間はとうに過ぎていることもあり、車内にはポツポツと数えるほどしか人がいない。
智里は大きな車窓を見つめながら、これまでの出来事をゆっくりと思い起こしていた。
*
「いやぁ、さすが木下君だね。誰からの依頼もスルーの、あの神絵師「アーテル」を口説き落とすなんて!」
企画部長が上機嫌で彼を賞賛した。彼は謙遜しながらも、どこか得意げな顔をしている。その側では、可愛らしい彼女が彼を褒めたたえるように微笑んでいた。
智里は少し離れた場所で、その様子を眺めていた。しかし、すぐに顔を俯け、その場を去る。このままだと、とても込み上げる気持ちを抑えられそうになかったからだ。
智里の勤め先は、イベント制作会社だ。様々なイベントを仕掛け、集客し、イベントを盛り上げる。
智里の仕事はプランナーで、イベントを企画するのが主な仕事だ。といえど、それほど大きな会社でもないので、企画だけというわけにはいかない。
段取りはもちろん、イベント当日も手伝いに駆り出されることが多々ある。かなりの体力を必要とするハードな仕事だが、智里はこの仕事が好きだった。自分が手掛けたイベントに足を運び、笑顔になっている人たちを見ると、智里の気持ちは報われる。頑張ってよかった、そんな風に思えるのだ。
智里は入社五年目で、リーダーとなってイベントを仕切ることも増えてきた。ただ、先輩のフォローに回ることも未だある。
あの出来事は、二年前から付き合っている先輩プランナーのサブとして仕事に入った時、起こった。
先輩プランナー・木下俊樹が手掛けていたのは、人気のイラストレーターのイラストを展示する原画展だった。
イラストレーターはプロアマ問わず、世の人々に支持され、注目されている人物をピックアップしていた。
「アーテルが参加してくれたら、絶対盛り上がるんだけどなぁ。そう思わない?」
俊樹が智里と、智里の仕事を手伝ってくれているアシスタント・牧野由希美に向かってそう言った。
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