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「嘘!?」
アーテルから個別にメッセージが届いたことに、とんでもなく驚愕した。まさかそんなことが起こるとは思わなかったのだ。
『ご丁寧な感想をくださり、ありがとうございました』
まずは、智里のコメントに対する礼から始まったアーテルからのメッセージは、こちらこそご丁寧に、と思えるほど好感の持てるものだった。
智里は、彼の絵に対する感想と、一緒に仕事がしたいという旨を切々と、且つ、簡潔にまとめてコメントをした。
あまり長々書いても鬱陶しいだけだろうし、そもそも長文は入力できない仕様だ。彼の絵に対する自分の思い、仕事の依頼、その両方を端的にまとめるのは骨だった。何時間も文章を練って練って練りまくったのだ。そんな努力が報われた気がした。
「俊樹先輩! アーテルから返事がきました!」
「嘘だろ!? マジか! 参加するって?」
「展示ではないなら、と」
「なんだそれ? んー、でもまぁいいか。それじゃ、パンフレットの表紙とかならいいってことだよな?」
「はい。私も同じことを思いました」
「よし! じゃ、その方向で彼に依頼してくれ。それで、俺の話もしておいて。俺からも連絡したいから」
「わかりました」
そこからは、俄然盛り上がった。
アーテルからメールアドレスを教えてもらい、それからはメールで連絡を取り合うようになった。
しかし、話が前に進むほど、智里からアーテルに連絡することは少なくなっていった。やり取りは主に俊樹がするようになり、智里はCCで経過を眺めるだけだ。
それでも、アーテルからラフ画や下絵が送られてくる度、智里の胸が躍った。ラフであろうが、下絵であろうが、彼の絵には命が宿っていた。
今回の絵は、コミックやアニメに近いタッチだ。原画展に参加するイラストレーターの絵の雰囲気に合わせたのだろう。
入稿データを受け取った時も、これはまだ他の誰も知らない、自分たちのイベントのためだけに描かれたものだと思うと、感動で胸が震えた。
それからだ。彼とのやり取りが完全に途絶えてしまったのは。
もちろん、データを受け取った連絡とお礼のメールはしていた。しかし、その後のやり取りが確認できなかった。
イベントへの招待の件など、諸々のことはどうなっているのか。それが気になって俊樹に尋ねると、それらについては由希美に全て任せてあると言われた。
「どうして由希美ちゃんに……? 私に言ってくれればいいのに」
「由希美にも、そろそろ重要な仕事をさせる必要があるだろ。何かあればお前に聞けって言ってあるから」
「そんな……」
「もうあと少ししかないんだぞ? 忙しいんだから、そんなことくらいで呼び止めんなよ」
ショックだった。必死の努力で勝ち取ったものを、まるまる横取りされたような気がした。そしてそれは、気のせいではなかったのだ。
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