07-2.三年後

1/3
前へ
/96ページ
次へ

07-2.三年後

「お疲れ様、智里! インタビューも記事も、なかなか堂に入ってきたね!」 「ほんと? そんなこと言ってるの、沙由美だけなんじゃないの?」 「そんなことないよ。皆そう言ってるよ! 祐君も面白いっていつも楽しんでくれてるし」  智里は三年前、匠と結婚することが決まって埼玉に戻ってすぐ、沙由美が勤めている会社に転職した。  ちょうど会社が増員を考えていたこと、智里がピンチヒッターとして受けた仕事の評判がよかったこともあり、ぜひ来てほしいと言われたのだ。  あの時はインタビューだけだったが、入社後は記事を書くところまでを担当することになり、最初は試行錯誤の連続だった。しかし、家には文章のプロがいる。匠にいろいろと教わりながら、智里は懸命に仕事をしてきた。  元々人と関わることは好きで、前職からのコミュニケーションスキルも役立ち、インタビューはいつも楽しい。再びこうして楽しい仕事に携われることに感謝をしながら、智里は今の仕事に必要なスキルを身に付け、磨いていった。 「パパ、ニコニコ!」 「そうね~、ニコニコしながらご本読んでるよねぇ」 「ワンワン、ワンワン! ニコニコしてうー」 「え? ワンワンもニコニコしてるの?」 「うん!」  小さな指の先には、足元でのんびりと寝そべっているリアンの姿がある。  リアンはシベリアンハスキーで、顔つきはどちらかというといかつい。怖いと言われることはあっても、ニコニコしてると言われたことなどない。  しかし、沙由美の膝に乗っている小さな子どもは、瞳をキラキラさせながら大きく頷いた。 「桜ちゃんの目には、そう映ってるんだ」 「みたい。子どもって不思議だよねぇ」  沙由美が桜の頭を撫でると、桜は嬉しそうに笑う。リアンはゆっくりと立ち上がり、桜に近づいていく。 「リアン!」 「大丈夫、大丈夫。この子、リアン君が大好きなんだよね。コハク君よりも断然リアン君派みたい」  沙由美がそう言うと、智里の足元にいたコハクがクゥと不満げな声をあげた。  智里と沙由美は思わず顔を見合わせ、プッと吹き出す。 「あははは! さすがコハク君は賢いなぁ。桜、コハク君が僕は? って言ってるよ?」 「コアク? かーいい」  すると、今度はリアンが不満そうに小さく鳴いた。 「リヤー!」  桜が手を伸ばすと、リアンがその手をペロリと舐める。すると桜はキャッキャッと笑って身体を揺らした。ものすごくご機嫌である。  はしゃぐ桜を見て、心がほんわかと温かくなる。それは沙由美も同じようで、また二人は顔を見合わせて笑った。  桜は二年前、山口と沙由美の間に生まれた子どもだ。  二人はことあるごとに黒須家にやって来る。子どもには、小さい頃から動物に触れ合わせたいという意向があるようで、二人の家は集合住宅で動物は飼えないこともあり、よく三人でここへ遊びに来るのだ。  もちろんそれだけではなく、山口は匠を構い倒しているし、匠も嫌な顔をしつつもそれに付き合っている。本気で嫌なら相手にもしないから、匠もそれなりに楽しんでいるのだろう。  そして、智里と沙由美は仕事仲間でもあり、仕事絡みの話もよくする。だが、今はそれよりも別の話題でもちきりだった。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1098人が本棚に入れています
本棚に追加