01-3.再会

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01-3.再会

「お待たせしました、咲坂……さん」  救急箱を持ってリビングに戻ってきた萩尾は、見つめ合う二人を見て目をぱちくりとさせた。二人の足元ではリアンがウロウロと歩き回っている。  これはいったいどういう状況なのだろうか。 「あの……」 「あ……は、萩尾さん!」 「救急箱……どうしたんですか?」  萩尾の姿を見て驚く智里と、救急箱に反応する匠。  この二人がまさか顔を合わせているとは思っていなかった萩尾は、ペコペコと頭を下げながら二人の間に入った。 「あー驚いた! 先生、原稿が終わるまで今日は缶詰って言ったじゃないですか。まだ部屋にこもってると思ってたのに。あ、咲坂さん、ちょっとだけ足を失礼しますね」  萩尾は智里の膝にできた擦り傷を手際よく消毒し、絆創膏を貼る。咄嗟に腕で庇ったので、そちらは特にあちこちに傷ができていた。それらを一つ一つ丁寧に手当てしながら、萩尾はこれまでの経緯を匠に話していく。 「そりゃね、僕はあんまりここにいる子たちに懐かれてはないですよ? でも、あんないきなり走り出すとは思わなくて……」 「コハクが?」 「あの子があんな風に一目散に駆けて行くなんて、僕びっくりしましたよ! おまけに咲坂さんにのしかかっているのを見た時には……もう心臓が止まるかと思いました」  心臓が止まるとは大袈裟だ。しかし、あの時の萩尾は顔面蒼白で、今にも死にそうな顔をしていたかもしれない。それを思い出し、智里はつい笑ってしまった。 「咲坂さん、本当にすみませんでした」 「いえ。たぶん……コハクは私を覚えていてくれたんだと思います」 「え?」  萩尾が首を傾げている。  すると、匠が大きな声でコハクを呼んだ。コハクはその声に反応し、すぐさまリビングにやって来る。匠の側に寄りそい、そろりと見上げた。  その顔は「なに? どうして呼んだの?」とでも言っているようで、智里はその可愛らしさに笑みを零さずにはいられない。  その気配を察したのか、コハクが智里の方を向く。智里が笑顔を返すと、コハクは嬉しそうに尻尾を振りながら智里の側に寄ってきた。 「コハク、覚えていてくれたの?」  コハクは答える代わりに、智里の頬をペロリと舐める。くすぐったさに身体を竦めると、逆方向から白い物体が智里に覆い被さってきた。リアンである。 「きゃあ!」 「リアン!」 「あはははは! くすぐったいよ、リアン! なに、お前、すっごくかっこいいね」  智里はコハクの真似をして頬を舐めてきたリアンの首の辺りを柔く掴み、すりすりと撫でる。リアンの顔を間近で見てわかった。リアンはシベリアンハスキーだ。キリリとした強面だが、性格は穏やかなことが多い。  智里がリアンを何度も撫でていると、コハクがその様子を羨ましそうな目で眺めていた。自分もじゃれたいが、コハクは先ほど智里を地面に転がしてしまっている。それを反省しているのか、じっと我慢しているようだった。そんな雰囲気がひしひしと伝わってきて、智里はリアンに覆い被さられたまま、腕を伸ばしてコハクの頭を撫でる。 「お前は賢いね、コハク」  コハクが鼻で智里の腕をちょん、とつついた。 「咲坂さんも動物に好かれるタイプなんですねぇ」  感心したような萩尾の声が聞こえ、智里は僅かに引っかかる。 「も?」 「あぁ、先生も動物に大人気なんですよ」 「先生……」 「あ! ……えっと、その」  智里が「先生」と繰り返したのを聞き、萩尾は自分のやらかしてしまったことに気付き、オロオロしながらもすぐに口を噤む。だがもう遅い。ハァ、と盛大な溜息が後に続いた。 「萩尾さん」 「すみませんっ! ついっ……」 「え? なに? どうしたんですか?」  智里だけが話についていけない。  匠はまた溜息を落とし、智里の上にいるリアンを抱え床に下ろす。そして、智里に手を差し伸べた。智里はその手に引き上げられる。匠は鬱陶しそうに前髪を上げ、両の目を智里にはっきりと晒した。 「……やっぱり匠だぁ」  無意識にそう呟くと、匠は表情を和らげ、小さく微笑んだ。 「久しぶり。……智里」
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