番外編:由来

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「んっ……」  唇が重なる。匠の熱が直に伝わり、一気に体温が上昇した。閉じていた目をゆっくりと開けると、匠が射るような視線を向けている。 「匠……」 「再会できてよかったと思うのは、俺も同じだ。……いや、俺の方が強く思っている。感謝、している」  そしてまた、口づけられる。  強く抱きしめられ、何度もキスを重ね、それが少しずつ深くなって足元も覚束なくなった。智里が匠にしがみつくと、匠の喉が鳴る。 「たく……み」 「あぁ、もう。……完全に煽ってんな、その顔」  そんなのは知らない。智里はただ、匠を見つめているだけだ。  匠が智里の髪を梳き、顔のあちこちにキスの雨を降らせる。やがては耳にまで柔く噛みついた。 「あぁっ!」  突然のことで、驚いて声をあげる。が、想定外に恥ずかしい声が出てしまい、智里は匠の胸に顔を埋めた。 「も、もぅ!」 「……あいつが間抜けでほんとよかった」 「え?」 「なんでもない」  匠は誤魔化すようにそう言って、智里をソファに押し倒す。  真下から見上げても、匠の顔は整っていて一分の隙もない。綺麗だなと思って手を伸ばすと、その手を匠に取られ、指を絡められる。  再び口づけられ、匠の唇は今度は徐々に下りていく。首筋に、そして鎖骨を辿り、強く吸われた瞬間にまた甘い声が漏れた。その場所にはきっと赤い華が咲いている。 「智里、少しだけ待って」 「え……」  匠は智里から身体を離し、身を起こす。智里が匠の姿を目で追うと、彼は別室のドアをきちんと閉め、おまけに衝立をした。 「え、ちょっと……」 「あいつらに邪魔されたくないからな」  別室には犬猫たちがいる。萩尾がいなくなったとなれば、そのうちリビングに出てくるだろう。だから、簡単に出てこられないように衝立をしたのだ。 「あいつらには後で謝るし、おやつもやるし」 「でも、なんか早速抗議されてるよ?」  耳をすませると、ガリガリという音が聞こえてくる。別室の彼らが出せと言っているのだ。 「そのうち諦める」 「……いいのかなぁ」 「あいつらの心配をしてる場合じゃないぞ」 「え……」  匠が覆いかぶさってきて、再びキスの雨が降ってくる。  最初は少し抵抗していた智里も、すぐに流されていく。抗えないことなど、はじめからわかっていた。 「好きだ、智里」 「匠……」 「愛している」  その声に反応し、身体中にぶわりと熱が込み上がる。  智里が必死に手を伸ばすと、指の一本一本にまで唇が落とされた。匠と目が合う。匠は優しく笑み、智里の眦に口づける。 「その潤んだ目は、やばい」 「……っ」  もう一度同じ場所にキスを落としながら、匠の指は忙しなく動き、智里の衣服を一枚一枚剥ぎ取っていく。  匠の指が身体に直接触れるごとにビクリと震え、熱が増す。その間もキスはやまない。──おかしくなりそうだ。 「匠っ……」  恋愛なんて興味ない、いつもそんな顔をしていた匠。  極度の人見知りで、滅多に人を寄せ付けない。クールだ、冷たいなどといつも言われていたが、その実、誰よりも優しい心の持ち主であることは、智里が一番よく知っていた。  匠の情は深い。そんな匠に捕まってしまった智里は、もうどんなことをしても逃げられないだろう。でも、それでいい。いや、それが嬉しいのだ。  智里は腕を伸ばし、匠を引き寄せる。乱れた息で「愛している」と伝えると、匠が一瞬驚いた顔をし、嬉しそうに頬を緩める。その笑みは無邪気な子どものようだ。  可愛いと思うのと同時に、愛しい。胸のドキドキは収まらず、智里はふと思った。  これは、まるで初めて恋を意識した時のような──。 「これも、初恋って言うのかな」  小さく呟いた智里の言葉は、すぐに自分の声にかき消されてしまう。  あぁ、だめだ。智里が頭を振ると、艶のある低音が耳に飛び込んできた。 「他に考え事か? 余裕だな」 「ちがっ……」 「今は、俺のことだけ考えてろ」  台詞は俺様なのに、そうは感じない。それはきっと、その声音が拗ねているように聞こえるからだ。  智里はバレないようにこっそりと笑みを漏らし、匠を抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。  了
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