02.誰かの代わり

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 オウルに瘴気を喰われ、玲子は逃げ出す。  すると慧は、誘導するようオウルに指示を出した。慧は、離れていても常にオウルと連絡が取れるようにしているのだ。オウルは言われたとおり、玲子をひとけのない方へと誘い出す。  そして、ついに蛍たちもそれに追いついた。  慧は即座に結界を張り、力を放つ。その途端、オウルは万力を得たように玲子の瘴気に喰らいついていった。 「ギャアアアアッ!」  玲子は苦しみながらも攻撃を仕掛けてくる。だが、慧の結界の前にはそれも全て無効となる。オウルはどんどんスピードを上げ、瘴気を喰らっていく。  この分だと、玲子もあまり持たないだろう。  力の強いインフェクトということが事前にわかっていたこともあったので、慧もオウルもいつも以上に慎重に、且つ、力を大きく発揮して事に当たっている。  慧の額から汗が滑り落ち、表情が微かに歪む。それを見て、蛍は慧の手を取った。慧がチラリとこちらを見るが、蛍は構わず力を注いでいく。  何事も早めが肝心だ。弱ってからでは遅い。今なら、消耗した力を補充する程度でいい。インフェクトとの我慢比べにも余裕で対応できるはずだ。  慧をインフェクトに集中させるため、蛍は細心の注意を払って力を注いでいく。注ぎすぎると、かえって慧の手を煩わせてしまう。インフェクトは慧とオウルに任せ、蛍はヒーラーの力にだけ集中した。 「グワアアアアアア……」  玲子がか細い叫びをあげながら、地面に倒れる。彼女の瘴気は完全に尽きたのだろう。すぐさま、オウルが浄化に取り掛かる。  あとはオウルに任せておけば問題ない。  蛍は撮影場所の方を振り返り、どうなっているのか確認しようとして驚愕した。 「慧さん、雨が……」  結界のせいで気付かなかったが、いつの間にか辺りは大雨になっていた。  雅也の安否が気にかかるが、撮影場所にすでにその姿はない。そもそも、誰もいなくなっていた。いるのは、拓斗とフレッド、それにブロンシュのみ。  この荒れた天気のせいで、皆は建物の中に避難したのだろう。偶然とはいえ、人払いする必要がなくなり助かったというところか。  それにしても様子がおかしい。拓斗の方が力の弱いインフェクトで、フレッドならすぐに対処できるはずだと思ったのだが、彼らはいまだに戦いを繰り広げている。 「フレッドの奴、何してるんだ……」  予想しない何かが起こったのか。もしかすると、朔弥の妨害に阻まれているのかもしれない。 「慧さん、行きましょう」 「チッ、世話の焼ける」  文句を言いつつも、慧の足はすでにフレッドの方へ向かっていた。すでに浄化を終えたオウルも同じ方向に向かっている。  いつもなら浄化を終えると真っ先に蛍の元へ戻ってくるオウルも、この異変を察知したのだろう。 「フレッド!」  フレッドの側までやって来て、再び蛍は驚きで目を見張った。  フレッドが傷つき、ボロボロになっていたのだ。ブロンシュの方も必死に瘴気を喰らっているが、フレッドがこの状態なので、彼も同様に弱っている。  慧はフレッドの身体を支え、周囲の結界を補強する。 「なんでこんなことになってるかなぁ?」 「……そっちは?」 「とっくに終わったよ」  慧はフレッドに力を分け与えることはできない。ここは、オウルに加勢させるしかない。オウルも心得たもので、言われるまでもなくブロンシュをフォローしていた。 「朔弥か?」  慧の問いに、フレッドが首を横に振る。  違う? なら、どうしてフレッドはここまでボロボロになっているのか。  慧が視線を鋭くし、辺りの気配を窺う。一瞬にして緊張する空気に、蛍の胸に不安と恐怖がわき上がった。  聞きたくない。耳を塞ぎたい。だが、聞きたくなかったその言葉が、耳に飛び込んできた。 「オリジンのお出ましだ」 「!」  オリジン・朽葉七桜が拓斗に力を貸したと、フレッドは言った。  どうして力の強い玲子の方ではなかったのか。玲子に力を貸した方が、敵であるマスターを葬るのに都合がよかったはずだ。それなのに、弱い方に力を貸した。意味がわからない。 「僕たちをいたぶって楽しもうって魂胆か? 力の強いインフェクトを捨てるなんざ、全く意味不明。相変わらず読めないね」  慧が憎々しげに呟く。フレッドも苦しそうに息をつき、それに同意した。 「彼に力を分けて……そして消えた。でも、それからの彼はとんでもない。いったいどれだけの力を与えたのか……」  よろめくフレッドを支え直し、慧が表情を歪める。 「みたいだね。ブロンシュとオウルの二人体制だっていうのに、かなり手こずっている」  二人はものすごいスピードで瘴気を喰らっている。しかし、拓斗から際限なく瘴気が噴き出してくるのだ。キリがない。
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