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プロローグ 予期せぬ来客
昼休憩が終わり、そろそろ午後の仕事にとりかかろうかという時、英探偵事務所内に来訪を告げるベルが鳴った。
その音を聞き、三人は同時に顔を見合わせる。
英探偵事務所所長・英慧、アシスタントの天羽蛍、そして蛍の左肩にとまっているフクロウのオウルだ。
「翔平君から来るって連絡あったっけ?」
「いえ、私は聞いてないです」
「まさか、フクちゃんが知ってるってことはないよね?」
「知りません」
うーん、と頭を捻っているうちに、再度音が鳴る。
探偵事務所なのだから、依頼人が来たと普通なら考えるところだが、残念ながらここは普通の探偵事務所ではない。探偵事務所と名乗ってはいるが、依頼人はたった一人に限られる。
依頼人の名は、椎名翔平。慧の幼馴染であり、現在は警視庁広域犯罪対策室に勤めている。
警察で解決できなかった不可解事件を再度調査することが主な業務なのだが、その中には、人ならざるものの介入が疑われるものが混じっている。それを翔平が動物的な勘で探し当て、慧に持ってくるのだ。
人ならざるもの、それは「インフェクト」という。
瘴気という人間に害になるものを撒き散らし、欲望の赴くまま人の命を奪っていく。奪った命の数で自らの力を蓄え、その存在を誇示する。彼らは仲間でも容赦なく蹴落とし、優位に立とうとする。彼らは負の感情に囚われ、抜け出すことは叶わない。
そんなインフェクトだが、元々は人間だ。オリジンという悪の親玉がおり、オリジンが人間に大量の瘴気を吸収させ、インフェクトにするのだ。その時点で、その人間の命は尽きる。つまり、自分の命と引き換えに、人ならざる特別な力を得るのだ。
インフェクトとなった人間は、自らが放つ瘴気でもって人を殺めることができ、何度も殺人を繰り返す。殺しの証拠が見つかりにくいことから、それらは未解決事件になることが多い。そんな訳で、彼らは重い罪を犯しているにもかかわらず、この世界で堂々とのさばっていられるのだ。
そんなインフェクトを退治するのが、対インフェクトのプロフェッショナル、マスターと呼ばれる慧の本来の仕事だった。
マスターは護りを従え、二人でインフェクトの退治にあたる。マスターがインフェクトの力を削ぎ、護りはインフェクトの瘴気を喰らい尽くして、最後には全てを浄化する。
インフェクトの末路は哀れだ。魂さえも塵となって消えてしまう。護りが浄化をするのは、インフェクトによって命を奪われた人間の魂であって、インフェクト自身の魂は救えないのだ。
マスターである慧の護りは、真っ白な美しい羽を持つフクロウのオウルだ。二人はこれまで力を合わせ、様々なインフェクトに対峙してきた。
そんな中、二人の目の前に突如として現れたのが蛍だった。
蛍は、本来人には見えないはずのオウルの姿を、その目で確認することができた。その能力は、明らかにこちら側の人間である証拠だった。
一番最初に関わった事件で蛍は慧とヒーラーの契約を交わし、共にインフェクトに立ち向かうことになる。
ヒーラーは、マスターを回復させたり力を増幅させる役割を担っている。
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