ゴースト

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ゴースト

鉄塔の上、浮かんだ 月に背を任せ両の手で翼を描いた 誰からも見えない、見られない そんなふしぎを冷たい風がさらって消した 足元にはあたたかな家 食卓にはクリイムシチュウ 鳴る食器の音に涙が止まらない 見渡す限りの街、街、 帰る場所なんてもうない 無意識に探す灯りの中にはそれぞれの生 吐き気がして真上を向けば シリウスが笑ってボクを見下ろした 星々と街たちに挟まれたボクの居場所は 鉄塔の上、浮かんだ ぶらつかせた足に当たる金属の冷たさ どこかで軋む音 凍えた手のひらが覚えている温み 宙ぶらりん どう、と吹いた風で揺れるてっぺん 涙はすぐに乾いて消える 死にたくなんてなかった別に 生きたくなんてなかった別に ただちょっとだけ勇気があったから ただちょっとだけ気が向いたから 選んだ先は冷たい夜風の吹く鉄塔 透けた身体で街を見下ろし 星々に見下ろされて朝を迎える これで良かった ボクはゴースト 深呼吸して、ごらん 君はまだ生きてる
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