かみさまになりたくて

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かみさまになりたくて

雨が降り止みそうな真夜中の手前 もう骨の折れかけたコンビニ傘を連れ出して 僕は歩く。ゆく宛もなく。ただ。 落ちる、雨に似た涙がさっと冷えて頬を撫ぜた 使わなくなったフライパン 増えた薬 見るのが怖い人の目 青信号を見る時にだけ刺さる太陽 雨の日の夜にしか出られない世界 それでも 誰かを嫌いになんてなってない 幸せでいてほしい あそこのオレンジ色した電気のリビング 車の下を借りて丸まってねむる野良猫 両手よりもっと離れた先にいる知らない誰か ニュースで泣いてたあの人 みんなみんなどうか幸せに ああ、僕がかみさまだったらな 折れかけたコンビニ傘をさしたかみさまは 雨の日の夜にしか外に出ないけれど みんなを等しく心配しているよ 疫病も戦争もなくならないけど 眩しい店内で顔なんて上げられないけど 傘をさすのが下手で寒いけど それでも僕がかみさまだったらな 誰かをすくえたらな 目を離したら盗まれたコンビニ傘 誰かの肩を濡らさずに済むのなら それでいいんだ
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