歩道

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歩道

つないだ手には少しの感情もない 手と手が、ただつながれているだけのこと これから向かう新しいカフェだとか新作のコスメだとか そんな話をするために必要な儀式 笑う度にぎゅっとなるのを知らない彼女は 先月できた彼氏の話をまるでおとぎ話のように語る 頬を染めた王子さまと出会えたお姫さま 私が親友で、それでいて女の子だから、この手はここにある 軽くなる彼女の足取りに合わせて少し痛いつま先キツいローファー 偏見なんてないよ 人にはやさしくしなくちゃ 笑顔が一番だよね そんなふうに話す彼女に今、告白をしたら 真っ青な顔をするって私知ってるよ パパーッと鳴るクラクションに掻き消された会話 適当に拾った切れ端から続きを作る 何話しても一緒だよ、だって私を見てないから 王子さまに殺されちゃうお姫さまの話なんて知らないんだろうな 家にある絵本は全部ハッピーエンドだった? なんて、こんな身勝手を押し付けたまま歩く私が一番見苦しい そっと離した手を握り返される そういうところ、好きで苦手で 親友だから近づける位置まで近づいて笑い返す キャンキャン吠えてきた子犬を かわいいねって撫でる彼女の腕は細くて真っ白で折れそうで 良くないことを、考えた パキッと折れる骨、それじゃあ王子さまとセックスなんてできないね 煩く吠え続ける子犬が真っ黒な瞳で私を見透かす 唾液で汚くなった彼女の手はてらてら光って糸を伸ばした 情事、吐き気 「生まれ変わったら犬になりたいな」 いいね、だなんて彼女は笑って手を拭いた
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