さみしいよ

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さみしいよ

起きたよ、誰にも何処にも言う人がいなくって 隣に寝転ぶぬいぐるみの冷えた表面をそっとなぞった 逆立った毛並みは元に戻らず、向きを変えて二度寝した 二度寝、沈む夢の中に着いてくるぬいぐるみ キミは確かうさぎだったっけ ボロボロになっても手放せないそれは 元の姿も形も、もう思い出せなくってさ キィキィと鳴らして乗り込んだブランコは錆びてる 手に付いた鉄錆の匂い 髪を軋ませる砂埃 どこか外れたチャイムの音 帰るよ、って言ってくれる人は今はいなくって ママ、って呼びかける顔の真っ白な知らない子 いいな、いいな、わたしも 起きたら太陽がカーテンの隙間を縫って射し込んで 何気なく手を伸ばしたら火傷した こもったままの部屋ではこれは熱すぎて 目を細めたまま天井を眺めた 右手にぬいぐるみを抱えたまま ちらちらと動く輝きを目で追って、息を止めた 暖かくなってきたぬいぐるみの表面に 人肌を重ねて縮こまる 布団の中で息を吐いて さみしいよ、さみしいよ、って、魔法の呪文みたいに 魔法なんてないって知ってる大人 それってさ、なんだかすごく さみしいじゃんね
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