かぜ

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かぜ

それは、どこにだって吹いていた 何もできないでいるこの部屋にだって 聞き、見ることしかできない戦地にだって 吹いていた 硬くなった皮膚の痕と 悲惨な事件の被害者とを比べては なぜ生きているのか、なぜ生きているのか そう問うた それは、どこにだって吹いていた 惰性を抱え込んで温度を保つ布団にだって 祝い声を上げる校舎の桜にだって 吹いていた なにもできないとただ嘆くだけのわたしと ビルから踏み出したその一歩を比べては なぜ生きているのか、なぜ生きているのか そう問うた 答えは吹いてはこなかった ただ風が吹くだけで 何も変えてはくれやしなかった わたしはただ、 ごめんなさいと言う相手を、ずっと探している
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